「一度フリーランスとして独立したのに、また会社員に戻るのは『負け』ではないか?」
「再就職活動で、組織に馴染めない人間だと思われるのが怖い」
自由な働き方を求めて独立したものの、収入の波や孤独感、キャリアの停滞感に直面し、会社員への回帰(出戻り)を検討する人は少なくありません。実際、SNSやビジネスメディアでは「フリーランスから会社員」というキーワードでの議論が活発であり、この選択が必ずしも「撤退」を意味するわけではないという見方が広まりつつあります。
特にマーケティング職のような変化の激しい領域では、個人のリソースだけで戦い続けることに限界を感じ、より大きな予算やチームでの成果を求めて組織に戻るケースが増えています。
本稿では、フリーランス経験者が会社員に戻る際に直面する葛藤を整理し、その経験を「失敗」ではなく「キャリアの資産」として評価させるための現実的な判断軸を解説します。感情的な迷いを排除し、合理的なキャリア選択の一助となる情報を提供します。
目次
フリーランスが会社員回帰を考え始める現実的な理由
独立当初は「自由」のメリットが大きく感じられますが、事業を継続する中で構造的な課題に直面するケースが大半です。多くのフリーランスが会社員回帰を検討する背景には、単なる「稼げない」という理由だけでなく、働き方の質に関わる3つの現実的な要因が挙げられます。
収入の不安定さがもたらす精神的な消耗
最も多くの人が挙げる理由は、経済的な見通しの立ちにくさです。フリーランス白書などの調査データを見ても、収入の不安定さは悩みの上位に常にランクインします。
たとえ会社員時代以上の年収を稼いでいたとしても、翌月の売上が保証されていないプレッシャーは精神を削ります。住宅ローンの審査や賃貸契約のハードル、病気や怪我による就業不能リスクなど、社会的な信用やセーフティネットの欠如を痛感する場面も少なくありません。
「毎月決まった日に給与が振り込まれる」という精神的安定を確保し、本業のパフォーマンス発揮に集中したいという欲求は、長くフリーランスを続けるほど強くなる傾向にあります。
営業・事務・実務の「一人多役」による疲弊
フリーランスは、本来の職能(マーケティングやクリエイティブ)以外の業務にも多くの時間を割かれます。新規案件獲得のための営業活動、契約書締結、請求書発行、確定申告などのバックオフィス業務は、実務時間を圧迫します。
特にマーケターの場合、クライアントワークに追われて「自分の事業のマーケティング」がおろそかになり、自転車操業に陥るケースも散見されます。「マーケティングの仕事が好きで独立したのに、半分は事務作業をしている」という矛盾に気づいたとき、分業体制が整った組織のありがたみを再認識することになります。
フィードバック不在による成長の停滞と孤独感
組織に属さないことによる「成長痛の欠如」も深刻な課題です。フリーランスは即戦力として成果を求められるため、自分の持っているスキルを切り売りする「アウトプット中心」の働き方になりがちです。
上司や先輩からのフィードバックを受ける機会がなく、自分の市場価値が上がっているのか、あるいは陳腐化しているのかを客観的に判断することが難しくなります。また、誰にも相談できずに意思決定を繰り返す「孤独な責任」に疲れ、チームで議論しながらプロジェクトを進める環境を再び求めるようになるのは自然な流れといえます。
「会社員に戻る=失敗」ではないキャリアの再定義
「会社員に戻る」という行為を「独立の失敗」と捉えてしまうと、再就職活動において自信を失い、不利な条件での入社を余儀なくされるリスクがあります。しかし、人材市場のトレンドを見ると、フリーランス経験は適切な文脈で語られれば強力な武器になります。ここでは、会社員回帰をポジティブに捉え直すための3つの視点を提示します。
働き方はライフステージごとの「フェーズ」で変わる
キャリアは直線的なものではなく、ライフステージに合わせて柔軟に変化させるべきものです。20代でリスクを取って独立し、個人の戦闘力を高めた後、結婚や子育て、親の介護などが発生する30代・40代で「安定と裁量のバランス」が取れる企業を選ぶことは、極めて合理的な生存戦略です。
「一度独立したら一生フリーランスでなければならない」というルールはありません。今の自分にとって最適な環境を選び直すことは、変化対応力の現れであり、決して後退ではありません。
組織のリソースを活用してこそ得られる経験
個人では扱えない規模の予算やデータを扱えることは、企業組織の最大のメリットです。特にマーケティング領域では、数億円規模の広告予算や、高額なMA(マーケティングオートメーション)ツール、膨大な顧客データへのアクセス権限は、大企業や成長企業に属していなければ得られません。
フリーランスとして「個の力」を磨いた後に、企業の「リソース(ヒト・モノ・カネ)」をレバレッジとして活用することで、個人時代には不可能だった大規模なプロジェクトを成功させる。これは「会社員に戻る」というより、「より大きな仕事をするための環境シフト」と定義できます。
回帰は「撤退」ではなく、強みを活かす「再配置」
フリーランス経験者が会社員に戻る際、それは「ゼロからのやり直し」ではありません。経営者視点で売上を作った経験、全責任を負って納期を守った経験、直接クライアントと交渉した経験は、一般的な会社員にはない希少なスキルセットです。
企業側も、指示待ちではなく自律的に動ける人材を求めています。自身を「元フリーランスの出戻り社員」ではなく、「経営感覚を持った実務家が、組織という機能を選んだ」と位置づけることで、転職市場での評価は一変します。これは撤退戦ではなく、自分の能力を最も高く売れる場所への「戦略的再配置」なのです。
フリーランス経験がマーケティング転職で評価されるポイント
企業の人事担当者や採用マネージャーは、元フリーランスに対して「組織に馴染めるか」という懸念を持つ一方で、一般的な会社員にはない「実戦的な強み」を高く評価する傾向にあります。特にマーケティング職においては、以下の3点が強力なアピールポイントとなります。
- ビジネス全体を俯瞰して実務を回した経験値
会社員、特に分業が進んだ大企業では「広告運用だけ」「メールマガジンだけ」といった一部分の業務に特化しがちです。対してフリーランスは、案件の獲得から要件定義、実務の遂行、納品、請求、入金確認まで、ビジネスの全工程を一人で完結させる必要があります。
この「商流全体の理解」は、マーケティング施策が経営数字にどう直結するかを肌感覚で理解していることを意味します。部分最適ではなく全体最適の視点で戦略を語れる点は、プロジェクトマネージャー(PM)やマーケティング責任者候補として高い評価につながります。 - シビアな数字意識と成果へのコミットメント
フリーランスにとって、成果が出ないことは契約終了(失注)を意味します。そのため、費用対効果(ROI)や獲得単価(CPA)に対する意識の高さは、一般的な会社員とは比較になりません。
「予算を消化すること」が目的化しているマーケターが多い中、「自分の財布からお金を出す感覚」で予算配分を考えられるコスト意識は貴重です。採用面接において、具体的な数字改善の実績とともに「なぜその施策が利益につながると判断したか」というプロセスを説明できれば、即戦力として信頼を得やすくなります。 - 指示を待たずに動く自走力と改善提案力
教育体制が整った企業では「教えてもらう」という姿勢が許容されることもありますが、フリーランスの世界では自ら情報を掴みに行き、課題を発見して解決策を提案しなければ生き残れません。
この「自走力(オーナーシップ)」は、変化の激しいベンチャー企業や、DX推進中の企業が最も欲する資質です。言われたことだけをこなすのではなく、「御社の課題はここにあるため、このような施策が必要です」と提案ベースで業務を遂行できる姿勢は、受け身な人材が多い転職市場において大きな差別化要因となります。
会社員回帰でミスマッチが起きやすいケースと対策
フリーランスから会社員への転身は、能力面での評価が高くても、環境や文化の「相性」でつまずくケースが後を絶ちません。早期離職を防ぐためには、以下の3つのミスマッチ要因を事前に理解し、対策を講じておく必要があります。
裁量権の有無と組織ルールの窮屈さへの耐性
最も大きなギャップとなるのが、意思決定のスピード感と「社内政治」の存在です。フリーランス時代は自分の判断で即日実行できていた施策も、組織では上司の承認、稟議書の作成、関係各所への根回しが必要となり、実行までに数週間かかることも珍しくありません。
また、定時出社や朝礼、週報といった管理業務を「無駄」と感じてストレスを溜めるケースも散見されます。面接時に「個人の裁量権がどこまであるか」「意思決定のフローはどのようなものか」を具体的に確認し、ある程度の窮屈さは組織のリソースを使うための「コスト」として割り切れるか、自問する必要があります。
年収額面だけで判断してしまうリスク
フリーランス時代の「売上」と、会社員の「年収(額面)」を単純比較してはいけません。フリーランスの売上には経費や将来の不安定リスクが含まれていますが、会社員の給与には社会保険料の会社負担分、有給休暇、福利厚生、退職金積み立てなどの「見えない報酬」が含まれています。
単純に額面が下がったからといって「生活レベルが下がる」とは限りません。一方で、副業が禁止されている場合、総収入が激減する可能性もあります。提示された年収だけでなく、福利厚生や副業規定、賞与の条件を含めた「実質的な待遇」を冷静にシミュレーションすることが重要です。
企業側が求める役割期待とのズレ
「プレイヤーとして現場で手を動かし続けたい」という元フリーランスと、「マネジメントや組織づくりをしてほしい」という企業側の期待がズレる事例も多いです。
企業はフリーランス経験者の視座の高さに期待し、管理職候補として採用するケースが多々あります。しかし、本人が「現場の制作や運用だけをしていたい」と望んでいる場合、入社後に求められる会議や部下の育成業務にモチベーションを失ってしまいます。選考段階で「自分がやりたい領域」と「会社が任せたい領域(Job Description)」のすり合わせを徹底することが不可欠です。
経験者が選ぶべき会社・職種を見極める視点
フリーランス経験者が会社員に戻る際、最も避けたいのは「こんなはずじゃなかった」という早期離職です。自身のスキルを活かしつつ、組織のメリットを享受できる環境を選ぶためには、以下の3つの視点で企業を見極める必要があります。
事業会社か支援会社か?それぞれの適性
大きく分けて「事業会社(自社サービスのマーケティング)」と「支援会社(代理店・制作会社)」のどちらを選ぶかは重要な分岐点です。
支援会社は、クライアントワークという点でフリーランス時代の動き方と近く、多種多様な案件に関われるため、スキルアップのスピードが速いのが特徴です。一方、事業会社は一つのサービスに深くコミットでき、施策後のLTV(顧客生涯価値)まで追える面白さがありますが、組織文化への適合がより強く求められます。
「変化を好むか、深掘りを好むか」という自身の特性に合わせて選択する必要があります。
内製チームの有無と外注活用のバランス
事業会社を選ぶ場合、「社内にマーケティングチームがあるか」は死活問題です。もし「マーケ担当ひとり」という環境に入社してしまうと、フリーランス時代と同様に戦略から実務、雑用まで全てを一人で抱え込むことになります。
逆に、組織が出来上がりすぎていると、業務が細分化されすぎて物足りなさを感じるリスクがあります。「ある程度の内製チームがありつつ、専門外の領域は外注(パートナー)をうまく活用している」企業こそ、フリーランス経験者のPM(プロジェクトマネジメント)能力が最も活きる環境といえます。
「自由」と「安定」の最適解を探る条件設定
フリーランス経験者は、一般的な会社員以上に「時間と場所の自由」に敏感です。「週5日完全出社」のような厳格な環境は、一度自由を知った身には大きなストレス要因となり得ます。
現在は「フルリモート」「フレックス制」「副業可」など、柔軟な働き方を導入している企業も増えています。「安定した給与」と「柔軟な働き方」のバランスが取れる企業を妥協せずに探すことが、長期的な就業には不可欠です。
マーケティング特化型転職支援が会社員回帰に向いている理由
フリーランスからの再就職は、一般的な転職活動とは異なる戦略が必要です。大手総合型の転職エージェントでは、「組織適応力への懸念」や「職歴の特殊さ」から書類選考が通りにくいケースがありますが、業界特化型のエージェント(マスメディアンなど)を活用することで、そのハードルを下げることが可能です。
特殊なフリーランス経験を「企業言語」へ翻訳する重要性
フリーランスの職務経歴書は、プロジェクト単位での記載が多くなりがちで、一般的な人事担当者には「何ができる人なのか」が伝わりづらい傾向にあります。
特化型のエージェントは、マーケティングやクリエイティブの専門用語や業務フローを熟知しているため、フリーランス時代の雑多な経験を「企画力」「折衝力」「運用スキル」といった企業が評価しやすい言葉に翻訳して伝えてくれます。この「翻訳機能」が、書類通過率を大きく左右します。
個人のキャリア文脈を理解してくれる担当者の価値
「なぜ今、会社員に戻るのか」という質問は、面接で必ず聞かれる鬼門です。この回答がネガティブ(逃げ)に聞こえると採用は見送られます。
業界に精通したキャリアアドバイザーであれば、フリーランス市場の厳しさや、組織で働くことの価値を深く理解しているため、「ポジティブな回帰理由」を一緒に構築してくれます。単なる案件紹介だけでなく、キャリアの棚卸しとストーリー作りを伴走してくれるパートナーの存在は、孤独な転職活動において大きな支えとなります。
マスメディアンの特徴(強みと活用時の注意点)
宣伝会議グループが運営する「マスメディアン」は、マーケティング・クリエイティブ職に特化した支援実績が豊富です。企業の採用担当者も業界理解が深いため、フリーランス経験者の「即戦力性」を正当に評価してくれる求人が集まりやすい傾向にあります。
ただし、特化型ゆえに「未経験職種へのキャリアチェンジ」などの求人は少ない場合があります。自身のスキルを軸に、より良い環境や条件を求める「即戦力採用」を狙う場合には、最適な選択肢の一つとなります。
まとめ:働き方は「戻る/進む」ではなく選び直すもの
「フリーランスから会社員に戻る」という言葉には、どこか後退したような響きが含まれがちです。しかし、本稿で整理してきた通り、それは変化するライフステージやキャリアの目的に合わせて、最適な環境を「選び直す」前向きなアクションに他なりません。
収入の安定を得て精神的な余裕を取り戻すことも、チームで大きなプロジェクトを動かす高揚感を得ることも、キャリアにおける正当な欲求です。フリーランスとして荒波を乗り越えてきた経験は、決して無駄にはなりません。そのタフさと実務能力を、次は「組織」というレバレッジを効かせて発揮すれば良いのです。
まずは、自分の経験が市場でどのように評価されるのか、専門のエージェントを通じて客観的な視点を取り入れることから始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、迷いを確信に変えるきっかけになるはずです。