ネットワークの世界には、LANやWAN、イーサネットにWi-Fiといった似たような言葉がたくさん登場し、まるで複雑な迷路のようですよね。特にIT系の資格勉強をしていると、「これらの違いは何?」「どの技術がどの場面で使われるの?」と頭がこんがらがってしまうことも少なくありません。
それは例えるなら、「家の中の間取り図」と「都市を結ぶ高速道路網」、「道路の舗装ルール」を一度に理解しようとしているようなもの。それぞれ役割や規模(守備範囲)が全く異なるため、一つずつ整理しないと混乱してしまうのは当然です。
この記事では、そんな複雑に見えるネットワーク技術の地図を、一枚ずつ丁寧に解きほぐしていきます。
- LANとWANという大きな枠組み(エリアの違い)
- それを実現する具体的な技術であるイーサネットやWi-Fi(通信の手段)
- さらには応用技術である広域イーサネットやVLAN(便利な使い方)
上記のように、基本から応用へと順を追って、それぞれの役割と関係性をシンプルに解説します。読み終える頃には、頭の中にあったモヤモヤが晴れ、「なるほど、そういうことだったのか!」とスッキリと整理されているはずです。一緒にネットワークの世界を探検していきましょう。
目次
LANとWANの違いとは?ネットワークの基本となるエリアの広さを徹底比較
ネットワークを理解する第一歩は、その「エリアの広さ」に着目することです。全てのネットワークは、大きく分けてLAN(ラン)とWAN(ワン)の2種類に分類できます。なぜなら、技術的に「どこまでの範囲をカバーするのか」が、ネットワークの目的や仕組みを決定づける最も基本的な要素だからです。
まずは、この2つの違いを、具体例を交えながら見ていきましょう。
LAN (Local Area Network) とは? ― 「建物内」の閉じたネットワーク
LANは、「Local(限定的な) Area(範囲の) Network」の略で、その名の通り、自宅やオフィスビル、学校のキャンパス内といった限定された範囲内のネットワークを指します。
WAN (Wide Area Network) とは? ― 「拠点間」をつなぐ広大なネットワーク
WANは、「Wide(広大な) Area(範囲の) Network」の略で、地理的に離れた場所にあるLAN同士や、LANとインターネットをつなぐ広範囲なネットワークを指します。
[図解1:LANとWANのイメージ図] +---------------------------------+ +---------------------------------+ | 家 / オフィス (LAN 1) | | 友人宅 / 支社 (LAN 2) | | | | | | PC --- ルーター --- スマホ | <--WAN--> | PC --- ルーター --- サーバー | | | | (インターネット) | | | | プリンター | | プリンター | | | | | +---------------------------------+ +---------------------------------+ 説明:家やオフィスの中といった閉じた範囲が「LAN」。そのLAN同士を、インターネットなどの広域網でつないだものが「WAN」の概念です。
【比較表】ひとめで分かるLANとWANの違い
比較項目 | LAN (Local Area Network) | WAN (Wide Area Network) |
---|---|---|
正式名称 | Local Area Network | Wide Area Network |
日本語訳 | 構内通信網 | 広域通信網 |
通信範囲 | 限定的(家、ビル、学校など) | 広範囲(都市間、国境を越えるなど) |
身近な例 | 家庭内ネットワーク、社内LAN | インターネット接続、本社・支社間ネットワーク |
主な目的 | 機器間のリソース共有 | 離れた拠点(LAN)間のデータ通信 |
回線速度 | 一般的に高速 | LANよりは低速な場合が多い |
所有者 | 個人・単一組織 | 通信事業者(キャリア) |
イーサネットと無線LAN/Wi-Fiの違い|LANを繋ぐ有線・無線の規格とOSI階層
先ほど、LANを「家の中のネットワーク」と例えましたが、次はその家の中で「どのようにデータを運ぶか」という具体的な方法(=通信規格)を見ていきましょう。LANを実現する規格の代表格が、有線のイーサネット(Ethernet)と、無線の無線LAN(Wi-Fi)です。
なぜ複数の規格があるかというと、利用シーンによって「安定性」と「利便性」のどちらを重視するかが異なるためです。動かないデスクトップPCには安定した有線を、持ち歩くスマートフォンには便利な無線を、というように適材適所で使い分けられています。
イーサネット (Ethernet) とは? ― 有線接続の絶対的王者
イーサネットは、LANケーブルを使って機器をネットワークに接続するための、最も普及している有線LAN規格です。私たちが普段目にする、PCの背面にカチッと差し込むケーブル(ツイストペアケーブル)や、壁のLANポートは、このイーサネット規格に基づいています。
無線LANとWi-Fiとは? ― 自由な無線接続の代名詞
無線LANは、その名の通り、電波を使って機器をネットワークに接続するための無線通信規格の総称です。LANケーブルの代わりに、電波でデータのやり取りを行います。
ここでよく混同されるのが「Wi-Fi(ワイファイ)」という言葉です。
- 無線LAN:電波でLANに接続する「技術の総称」。(例:「スマートフォン」というカテゴリ)
- Wi-Fi:数ある無線LANの規格の中でも、特定の団体(Wi-Fi Alliance)が「相互接続性(どのメーカーの機器同士でも繋がること)」をテストし、認証した製品に与えられる「ブランド名」。(例:「iPhone」や「Android」といった製品ブランド)
現在では、市場にある無線LAN機器のほとんどがWi-Fi認証を受けているため、「無線LAN ≒ Wi-Fi」と考えて差し支えありません。
【比較表】イーサネットと無線LAN(Wi-Fi)の特性
比較項目 | イーサネット (有線) | 無線LAN / Wi-Fi (無線) |
---|---|---|
接続方式 | 有線(LANケーブル) | 無線(電波) |
メリット | 安定性、高速性、セキュリティが高い | 利便性、ケーブル不要、複数端末の同時接続が容易 |
デメリット | 配線が必要、物理的な場所に縛られる | 不安定になりやすい、速度低下のリスク、電波干渉、セキュリティリスク |
主な利用シーン | デスクトップPC、サーバー、IP電話 | スマートフォン、ノートPC、タブレット、IoT機器 |
OSI参照モデル | 第1層(物理層)、第2層(データリンク層) | 第1層(物理層)、第2層(データリンク層) |
OSI参照モデルにおける位置づけ
重要なのは、イーサネットも無線LANも、OSI参照モデルの同じ階層(レイヤ)で機能する技術だという点です。どちらも「隣接する機器までデータを届ける」という第2層(データリンク層)の役割と、「データを電気信号や電波に変換する」という第1層(物理層)の役割を担っています。つまり、データを運ぶための基本的なルールは同じで、その最終的な伝送手段が「ケーブル」なのか「電波」なのか、という点が違うだけなのです。
広域イーサネットとは?イーサネット技術でWANを構築する仕組みと用途
さて、ここまでの話で、「LANの代表規格はイーサネット」「WANは離れたLAN同士をつなぐもの」と理解できました。ここで一つ、賢いアイデアが生まれます。「使い慣れていて安価なイーサネットの技術を、そのままWANでも使えないだろうか?」――この発想を実現したのが広域イーサネットです。
広域イーサネットは、通信事業者が提供するWANサービスの一種です。物理的には離れている複数の拠点(LAN)を、まるで一つの大きなLANであるかのように接続できるのが最大の特徴です。
なぜ広域イーサネットが必要になったのか?
かつて、本社と支社をつなぐようなWANを構築するには、「専用線」や「フレームリレー」といった非常に高価で複雑な技術しか選択肢がありませんでした。一方で、社内LANでは安価で高速なイーサネットが当たり前に使われています。このギャップを埋めるべく、「イーサネットの使い勝手の良さで、拠点間を安価に接続したい」という企業のニーズに応える形で登場したのが広域イーサネットなのです。
この専用路線(通信事業者が管理する閉域網)を通ることで、一般道の渋滞や事故(ネットの遅延やセキュリティリスク)の影響を受けずに、安全かつ高速に目的地(相手拠点)にたどり着けます。さらに、駅(各拠点のルーター)の仕様が普段使っているイーサネットと同じなので、特別な改札機(高価な専用機器)を用意する必要がなく、手軽に乗り入れできるのです。
[図解2:広域イーサネットとインターネットVPNのイメージ] 【広域イーサネット】 +----------+ +----------+ | 東京本社 |--- (広域イーサネット網) ---| 大阪支社 | | (LAN) | (通信事業者の閉域網) | (LAN) | +----------+ +----------+ 【インターネットVPN】 +----------+ +----------+ | 東京本社 |--- (インターネット) ---| 大阪支社 | | (LAN) | (公衆網) | (LAN) | +----------+ +----------+
説明:広域イーサネットは通信事業者の管理する閉じたネットワーク(閉域網)を使うため安全・高品質。一方、インターネットVPNは誰でも使える公衆網(インターネット)上に仮想的なトンネルを作って通信します。
広域イーサネットの主な用途
広域イーサネットは、その安全性と品質の高さから、主に以下のような法人向けの用途で利用されています。
- 本社と複数拠点の接続:全国の支社や店舗を、セキュアなネットワークで結び、販売管理システムや勤怠システムを共有する。
- データセンターとの接続:企業が利用するデータセンターと自社オフィスを、高速かつ安定した回線で直結する。
このように、離れた場所にあるネットワーク同士を、あたかも隣にあるかのように(=同じイーサネットLANにぶら下がっているかのように)扱えるようにするのが、広域イーサネットの真髄です。
VLANとは?物理接続に縛られずLANを分割する仕組みとセキュリティ上の利点
これまでは物理的な配線やエリアでネットワークを区切る話をしてきました。しかし、実際のオフィスでは「同じフロアに複数の部署が混在している」「人事異動でメンバーの所属部署が変わる」といった状況が頻繁に起こります。そのたびにLANケーブルを抜き差しして配線を変更するのは、非常に手間がかかり現実的ではありません。
この問題を解決するのがVLAN(Virtual LAN)、つまり「仮想LAN」という技術です。VLANを使えば、1台の物理的なネットワークスイッチを、あたかも複数の独立したスイッチであるかのように、論理的に分割することができます。
なぜVLANが必要なのか? ― 物理的な制約からの解放
VLANがない世界では、部署ごとにネットワークを分けるには、部署の数だけ物理的なスイッチを用意し、それぞれにPCを接続する必要がありました。これではコストがかさみ、構成の変更にも柔軟に対応できません。VLANは、こうした物理的な制約を取り払い、ソフトウェアの設定だけでネットワークのグループ分けを自由に行うために生まれました。
- 同じパーテーション内(同じVLAN)にいる人同士は、顔を合わせて自由に会話(通信)できます。
- しかし、隣のパーテーション(違うVLAN)にいる人とは、直接会話(通信)することはできません。
- 人事異動があっても、壁を壊すことなく、パーテーションの配置を変えるだけで簡単にレイアウト変更(設定変更)ができます。
このように、物理的な構造は一つのまま、仮想的な仕切りによって柔軟にグループ分けできるのがVLANの強力なメリットです。
[図解3:VLANによるネットワーク分割のイメージ] 【VLANがない場合】 PC(営業) --- スイッチA --- サーバー(営業) PC(開発) --- スイッチB --- サーバー(開発) 【VLANがある場合】 +----------------------------+ PC(営業) -----| |----- サーバー(営業) | 1台の物理スイッチ | PC(開発) -----| |----- サーバー(開発) | |--VLAN 10(営業部)--| | | |--VLAN 20(開発部)--| | +----------------------------+
説明:VLANを使えば、1台のスイッチ内で「営業部グループ」と「開発部グループ」を作成できます。物理的には同じスイッチに繋がっていても、VLANが違うとお互いに通信できなくなり、セキュリティが向上します。
VLAN導入のメリットと仕組み
VLANを導入する最大のメリットは、セキュリティの向上とネットワーク管理の効率化です。
メリット | 具体的な効果 |
---|---|
セキュリティ向上 | 部署ごとにVLANを分ければ、万が一ウイルスに感染しても、被害をそのVLAN内に食い止められます。また、他部署のサーバーへの不正アクセスも防げます。 |
柔軟なネットワーク構成 | PCの物理的な接続場所を変えずに、設定変更だけで所属するネットワーク(VLAN)を変更できます。人事異動や組織変更に迅速に対応可能です。 |
コスト削減 | 部署ごとに物理的なスイッチを購入する必要がなくなり、機器コストや設置スペースを削減できます。 |
パフォーマンス向上 | 本来LAN全体に届いてしまう不要な通信(ブロードキャスト)が、VLAN内に限定されます。これにより、ネットワーク全体の無駄なトラフィックが減り、パフォーマンスが向上します。 |
このVLANを実現する代表的な方法が「ポートベースVLAN」です。これは「スイッチの1~8番ポートはVLAN 10(営業部)」「9~16番ポートはVLAN 20(開発部)」というように、スイッチの物理ポートごとに所属VLANを固定する、最もシンプルで分かりやすい設定方法です。
【総まとめ】OSI参照モデルで見るネットワーク技術のすみわけ一覧表
最後に、これまで登場した全てのネットワーク技術が、パズルのピースのようにどのように組み合わさっているのか、その全体像を明らかにしましょう。この複雑な関係性を整理するための最強のツールがOSI参照モデルです。
OSI参照モデルは、通信の機能を7つの階層(レイヤ)に分けて定義したものです。手紙を出すときに「①便箋に内容を書く → ②封筒に入れる → ③住所を書く → ④ポストに投函する」といった手順があるように、ネットワーク通信も役割の異なる層が連携して成り立っています。
このモデルに各技術を当てはめることで、「どの技術が、どんな役割を担っているのか」が一目瞭然になります。
ネットワーク技術とOSI参照モデルの対応表
これまで解説してきた技術は、主に第1層(物理層)と第2層(データリンク層)に位置付けられます。これらは通信の最も土台となる部分です。
階層 | 名称 | 役割の例え | 主な役割と関連技術 |
---|---|---|---|
第3層 | ネットワーク層 | 郵便番号と住所 | 最終的な宛先へのルート決定 (IPアドレス、ルーターなど) |
第2層 | データリンク層 | 宛名シール(〇〇様) | 隣接する機器へのデータ転送 【該当技術】イーサネット、無線LAN(Wi-Fi)、広域イーサネット、VLAN |
第1層 | 物理層 | 封筒・インク・電波 | データを物理的な信号に変換 【該当技術】イーサネット(LANケーブル)、無線LAN(Wi-Fi)(電波) |
【この表から分かること】
- イーサネットと無線LAN(Wi-Fi)は、どちらも第1層と第2層をまたぐ技術です。第2層として「隣の機器に届ける」という共通の役割を持ちつつ、第1層でその手段(ケーブルか電波か)が異なります。
- VLANや広域イーサネットは、イーサネット(第2層のルール)を応用した技術であることが分かります。これらは物理的な形(第1層)ではなく、データの届け方のルール(第2層)に工夫を加えることで実現されています。
- LANとWANは、特定の階層を指す言葉ではありません。これらは第1層から第3層(あるいはそれ以上)にまたがる技術を組み合わせた、ネットワーク全体の「設計思想」や「アーキテクチャ」を指す概念です。
このようにOSI参照モデルで整理すれば、なぜあれほど多くの用語が存在するのか、そしてそれぞれがどのように連携しているのか、スッキリと理解