「ネットワークトポロジー」と聞いて、あなたはどんなイメージを持ちますか?
「あー、バス型、スター型、リング型ね…はいはい、試験に出るから暗記するやつでしょ?」
もし少しでもそう感じたなら、この記事はあなたのためのものです。多くの参考書では、それぞれの特徴が表にまとめられ、「これを覚えましょう」で終わってしまいます。もちろん、それも学習の一歩です。しかし、それではあまりにもったいない!
この記事が目指すのは、そんな「作業」としての暗記学習からの脱却です。
私たちが共に目指すゴールは、あなたがネットワーク設計者の『思考』を読み解き、その設計思想を語れるようになること。目の前のネットワーク図を見ただけで、
- 「なぜ、このシステムはコストをかけてまでスター型を選んだんだろう?」
- 「この場面で、あえてシンプルなバス型を採用した背景には何があるんだ?」
- 「このリング型の構成は、どんな障害を想定しているのかな?」
といった、設計の裏側にある「コスト」「信頼性」「拡張性」といった要素のトレードオフを、まるで当事者のように感じられるようになることです。
この記事を読み終える頃、あなたは単なる知識の受け手ではありません。ITインフラの「なぜ?」を自らの頭で考え、その面白さに目覚めた、未来のエンジニア、未来のアーキテクトへと進化しているはずです。
さあ、一緒に知的好奇心あふれるネットワークの世界へ、旅立ちましょう!
目次
【1. イントロダクション】ネットワークの形?街の道路と同じくらい大事な「トポロジー」の話
突然ですが、あなたの会社のネットワークは、どんな「形」をしていますか?
…と言われても、壁のLANポートやWi-Fiのアンテナしか見えず、普段その「形」を意識することはありませんよね。
でも、実はネットワークにも、私たちの知らないところで様々な「形」が存在します。そして、その形こそが、通信の速さや安定性を決める、非常に重要な要素なのです。
少しイメージを膨らませてみましょう。ネットワークを一つの「街」、行き交うデータを「車」、そしてコンピューター同士を繋ぐケーブルを「道路」だと考えてみてください。
もし、あなたの街の道路が…
- 一本の巨大なメインストリートだけだったら?(バス型)
道はシンプルですが、一台の車が故障で止まると、街中の車が動けなくなってしまいます(渋滞)。 - 中央の巨大なロータリーから放射状に道が伸びていたら?(スター型)
どこへ行くにも便利ですが、もしその中央ロータリーが閉鎖されたら、街全体の機能が麻痺してしまいます。 - ぐるっと一周できる環状線がメインだったら?(リング型)
どこかで工事があっても反対側から目的地に向かえますが、一方通行だとかなり遠回りになることもあります。
どうでしょう。街の「道路網の設計図」が、その街の利便性や災害への強さに直結することがイメージできたでしょうか。
この「道路網の設計図」にあたるもの、それこそが「ネットワークトポロジー」なのです。
この記事では、ネットワークの基本的な「形」であるトポロジーを学び、それぞれの形が持つメリット・デメリットを解き明かしていきます。さあ、まずは基本の形から見ていきましょう!
【2. 結論ファースト:3大基本トポロジーを一言でいうと?】
詳細に入る前に、まずは3つの基本トポロジーの核心的なイメージを掴んでしまいましょう!
- バス型 → 「一本道にみんなで相乗り!」
シンプル・低コストが魅力。でも、道が一つだからトラブルは全員に影響します。 - スター型 → 「中心の司令塔におまかせ!」
管理が楽でトラブルも他に広がりにくい優等生。でも、司令塔が倒れると全機能がストップします。 - リング型 → 「みんなで手をつなぐ輪!」
データが順番に回ってくるので衝突知らず。でも、誰か一人が手を離すと、みんなの輪が途切れてしまいます。
いかがでしょう?なんとなくキャラクターが見えてきたでしょうか。
では次に、試験対策としても非常に重要な「比較早見表」で、それぞれのメリット・デメリットを整理します。ここが最重要ポイントです!
ネットワークトポロジー比較早見表
項目 | バス型 | スター型 | リング型 |
---|---|---|---|
特徴 | 1本のケーブルに全端末をT字コネクタなどで接続する。 | ハブやスイッチなどの集線装置を中心に、各端末を放射状に接続する。 | 各端末を隣接するものと数珠つなぎにし、全体で円環状の形を構成する。 |
メリット | ・必要なケーブル長が最も短い ・集線装置が不要で低コスト |
・1台の端末やケーブルの障害が他に影響しにくい ・障害箇所の特定が容易 ・管理や拡張がしやすい |
・データの衝突(コリジョン)が発生しない ・特定のプロトコルで通信機会が保証される |
デメリット | ・基幹ケーブルの断線で全体が停止 ・通信量が増えると衝突が多発 ・障害箇所の特定が困難 |
・中心の集線装置の故障で全体が停止 ・集線装置のコストがかかる ・ケーブルの総延長が長くなる |
・1台の端末やケーブルの障害で全体が停止(※単一リングの場合) ・端末の追加や削除が難しい |
主な利用例 | 初期のイーサネット(10BASE-2, 10BASE-5) | 現在のイーサネット(LAN) | FDDI, トークンリング |
※スマホの場合は横にスクロールできます
この表が頭に入っているだけで、応用情報技術者試験の午前問題はかなり有利に戦えます。次のセクションからは、この表の内容を一つひとつ、図解で詳しく見ていきましょう!
【3. 大図解:バス・スター・リング型の仕組み】
さあ、ここからは3つの基本トポロジーの仕組みを、図と共に詳しく見ていきましょう。それぞれの「データの流れ方」と「弱点」をイメージで捉えるのがポイントです。
3.1 バス型:一本道を行き交うデータたち
(1本の同軸ケーブルに、複数のPCがT字型のコネクタでぶら下がるように接続され、ケーブルの両端に「終端抵抗」または「ターミネータ」と書かれた部品が付いている図)
仕組み:
バス型は、その名の通り「バス」と呼ばれる1本のメインケーブルに、すべてのコンピューターが接続される非常にシンプルな形です。送信されたデータは電気信号としてケーブル全体に広がり(ブロードキャスト)、すべての端末がその信号を受け取ります。そして、データに書かれている宛先が自分だった場合のみ、そのデータを取り込む仕組みです。
弱点:
この形の最大の弱点は、メインケーブルです。もし、このケーブルがどこか一箇所でも断線したり、両端にあるターミネータ(終端抵抗)が外れたりすると、信号が正しく伝わらなくなり、ネットワーク全体が停止してしまいます。
(メインケーブルの途中に「×」印が描かれ、すべてのPCが通信不可になっているイメージ図)
3.2 スター型:司令塔「スイッチ」が交通整理
(中央に「スイッチ」または「ハブ」と書かれた箱があり、そこから放射状に各PCへ個別のケーブルが接続されている図)
仕組み:
スター型は、「スイッチ」や「ハブ」といった集線装置を中心に、各コンピューターを放射状に接続する形です。現在主流のLANは、ほとんどがこのスター型を採用しています。データはまず中心のスイッチに送られ、スイッチが宛先のコンピューターを判断し、その相手にだけデータを賢く届けてくれます。
弱点:
この形の弱点は、言わずもがな中心のスイッチです。すべての通信がここを経由するため、もしスイッチが故障すると、すべてのコンピューターが通信不能に陥ります。まさにアキレス腱ですね。ただし、どこか1本のケーブルが断線したり、1台のPCが故障したりしても、影響はその端末だけに限定されるという大きなメリットがあります。
(中央のスイッチに「×」印が描かれ、すべてのPCが通信不可になっているイメージ図)
3.3 リング型:データをバケツリレー!
(複数のPCが円を描くように数珠つなぎに接続され、データが時計回りの矢印で流れている図)
仕組み:
リング型は、すべてのコンピューターを輪っか状に接続する形です。データは一方向に、隣へ隣へとバケツリレーのように転送されていきます。この方式の大きな特徴は、「トークン」と呼ばれる送信権を使うこと(トークンパッシング方式)。このトークンを持っている端末だけがデータを送信できるルールなので、バス型のようにデータ同士の衝突(コリジョン)が起こりません。
弱点:
シンプルなリング型では、1台のコンピューターの故障やケーブルの断線が、バケツリレーの途絶を意味します。つまり、輪全体が機能しなくなり、ネットワークが停止してしまうのです。(※この弱点を克服するために、二重のリングを持つなどの冗長化策が考えられました)
(リングを構成するPCの1台に「×」印が描かれ、リングが途切れて通信不可になっているイメージ図)
【4. なぜ?がわかる深掘り解説:メリット・デメリット比較】
トポロジーの「形」が分かったところで、次はその「なぜ?」に迫ります。なぜその形はコストが安いのか?なぜ障害に強いのか?ここでは設計者の視点で、それぞれのメリット・デメリットを論理的に解き明かしていきましょう。
4.1 コストの「なぜ?」 ~安さの理由と、その代償~
- バス型の安さの秘密
- なぜバス型は低コストなのでしょうか?理由は2つです。1つは、1本のケーブルを全員で共有するため、単純に必要なケーブルの総延長が短くて済むこと。もう1つは、スター型のような高価な集線装置(スイッチなど)が不要なことです。とにかく初期費用を抑えたい、という場面で重宝されました。
- スター型のコストの理由
- 逆にスター型は、中心のスイッチから各端末まで1本ずつ個別にケーブルを配線するため、ケーブルの総延長が長くなりがちです。さらに、中心にはスイッチ本体のコストがかかります。これが、バス型に比べてコスト高になる理由です。しかし、現在ではケーブルやスイッチの価格が大幅に下がったため、このデメリットは昔ほど大きな問題ではなくなっています。
結論:初期構築の安さだけを見ればバス型に軍配が上がりますが、管理の手間や後述する拡張性まで含めたトータルコストで考えると、現代ではスター型の方が合理的と言えるでしょう。
4.2 耐障害性の「なぜ?」 ~どこが壊れると全体が止まるのか~
- バス型・リング型の脆さ
- バス型もリング型(単一リング)も、障害に弱いと言われます。なぜなら、ネットワーク全体で共有している部分が「単一障害点(SPOF: Single Point of Failure)」になっているからです。バス型なら基幹ケーブル、リング型ならリングを構成するPCやケーブルがそれに当たります。たった1点の故障が、ネットワーク全体の通信を麻痺させてしまうのです。
- スター型の強さ
- スター型は、端末とスイッチが「1対1」で接続されているため、ある1本のケーブルが断線しても、影響を受けるのはそのケーブルに繋がっている端末だけです。他の端末は問題なく通信を続けられます。これが障害に強いと言われる最大の理由です。
- スター型のアキレス腱
- しかし、スター型にもSPOFは存在します。それは中心のスイッチです。ここが故障すれば、当然ながらすべての通信がストップします。だからこそ、実際の重要なネットワークでは、この中心スイッチを二重化するなどの冗長化対策が非常に重要になるのです。
- リング型の進化
- リング型もこの弱点を克服する進化を遂げました。代表的なのが二重化リング(デュアルリング)です。普段使うリングとは逆方向に予備のリングを用意しておくことで、どこか一か所が断線しても、瞬時に予備リングを使った迂回ルートを確保し、通信を継続できるのです。FDDIという規格でこの仕組みが採用されました。
4.3 拡張性の「なぜ?」 ~端末を増やしたい時の手間を比較~
- バス型・リング型の拡張の難しさ
- バス型やリング型に新しい端末を追加したい場合、どうすればよいでしょうか? 答えは「既存のネットワークを一度切断し、新しい端末を繋ぎ直す」です。これは、ネットワーク全体の通信を一時的に止めなければならないことを意味します。また、バス型はケーブルの総延長や接続できる端末数に物理的な制限があり、無闇に増やすことはできません。
- スター型の拡張の容易さ
- 一方、スター型はどうでしょう。スイッチの空いているポートに、新しい端末からのケーブルを挿すだけで拡張が完了します。もちろん、ネットワークを止める必要はありません。もしポートが足りなくなっても、スイッチ同士を接続(カスケード接続)して、さらに拡張することも可能です。この手軽さこそ、スター型がオフィスLANの主流となった大きな要因の一つなのです。
【5. 厳選過去問と思考トレース】
これまでに学んだ知識が、実際の試験でどのように問われるのかを見ていきましょう。ただ問題を解くだけでなく、「なぜその答えになるのか?」という思考のプロセスを一緒にたどることが、本当の実力アップに繋がります。
【挑戦状】この構成の弱点はどこだ?
問題(※応用情報技術者 H28春期 午前 問36 改題)
ある部門のLANは、1台のスイッチングハブにすべてのPCが接続されているスター型の構成である。このLANに関する記述のうち、適切なものはどれか。
ア スイッチングハブが故障すると、特定のPC間の通信だけができなくなる。
イ 特定のPCに接続されているケーブルが断線すると、すべてのPC間の通信ができなくなる。
ウ 特定のPCが故障しても、他のPC間の通信には影響を与えない。
エ この構成では、データの衝突(コリジョン)は絶対に発生しない。
…さて、どうでしょうか?落ち着いて考えれば、きっと正解が見えてくるはずです。下にスクロールする前に、少しだけ自分で考えてみましょう!
思考トレース ~メンターと一緒に考える~
では、答え合わせです。正解は「ウ」でした!なぜそうなるのか、思考のステップを追ってみましょう。
【STEP 1】問題文のキーワードを掴む
まず、問題文で最も重要なキーワードはどれでしょうか?
そう、「スイッチングハブ」と「スター型」の2つですね。この言葉を見た瞬間に、頭の中に「中央にスイッチがあり、PCが放射状に繋がっている形」を思い浮かべることが、正解への第一歩です。
【STEP 2】各選択肢を1つずつ吟味する(消去法で考える)
次に、各選択肢が正しいか間違っているかを、スター型の特徴と照らし合わせながらチェックします。
- ア:スイッチングハブが故障すると…
スター型の「弱点」はどこでしたっけ? そう、中心のハブ(スイッチ)です。ここはいわばネットワークの心臓部。心臓が止まったら、体の一部だけではなく、すべてが機能しなくなりますよね。つまり「すべてのPC間の通信ができなくなる」のが正しい状態です。「特定のPC間だけ」としているこの選択肢は、間違いです。 - イ:特定のPCのケーブルが断線すると…
スター型では、各PCは独立したケーブルでハブに接続されています。1本のケーブルが切れても、影響はそのPCだけに留まります。ネットワーク全体がダウンするのは、バス型や(単一)リング型の特徴でした。よって、この選択肢も間違いです。 - ウ:特定のPCが故障しても…
これは、選択肢イと考え方は同じですね。1台のPCが故障しても、それはそのPCだけの問題です。他のPCは、ハブを介して問題なく通信を続けることができます。「他のPC間の通信には影響を与えない」という記述は、スター型の耐障害性の高さを正しく表現しています。これが正解の可能性が非常に高いですね! - エ:コリジョンは絶対に発生しない…
「絶対に」という言葉が出てきたら要注意です。スイッチングハブは、ポートごとに通信を制御するため、バス型のように無駄な衝突は起こりにくくなっています。しかし、通信方式(半二重通信など)やネットワークの状況によっては、衝突が発生する可能性はゼロではありません。なにより、選択肢ウが明確に正しいので、この選択肢を選ぶ理由はありませんね。これも間違いと判断できます。
【STEP 3】結論を確定する
以上の検討から、スター型の特徴を最も正確に表しているのは選択肢ウであると自信を持って結論づけられます。
このように、過去問を解くときは、ただ正解番号を覚えるのではなく、「なぜそれが正解なのか」「他の選択肢はなぜ、どのように違うのか」を、今回学んだトポロジーの特性と結びつけて説明できるようになるまでトレーニングすることが、合格への最短ルートですよ!
【6. 未来を予測する出題予想】次に問われるのはコレだ!
バス型、スター型、リング型はトポロジーの基本ですが、実際のネットワークはこれらの形を巧みに組み合わせたり、さらに進化させたりして作られています。応用情報や高度区分を目指すなら、より実践的なトポロジーも知っておく必要があります。特に重要なのが「メッシュ型」と「ツリー型」です。
6.1 究極の冗長性「メッシュ型」
(複数のルータやスイッチが、互いに網の目のように接続されている図。全対全で繋がっている「フルメッシュ」と、部分的に繋がっている「パーシャルメッシュ」の違いが分かるとより良い)
メッシュ型は、複数の拠点を結ぶルータなどが、相互に網の目のように接続されるトポロジーです。
- メリット:圧倒的な耐障害性
最大のメリットは、その冗長性の高さです。図を見てわかる通り、1つの経路で障害が起きても、すぐに別の迂回経路を使って通信を継続できます。インターネットの基幹網や、絶対に止まることが許されないデータセンター間ネットワークなど、極めて高い信頼性が求められる場面で採用されます。 - デメリット:最高レベルのコスト
見ての通り、非常に多くのケーブルや高速なルータが必要になるため、コストは全トポロジーの中で最も高くなります。
出題予想ポイント:
「最も信頼性・冗長性が高いトポロジーはどれか」という直接的な問いや、「WANにおいて、複数の拠点間で一部の通信回線が切断されても、通信を継続できる構成はどれか」といったシナリオ問題で登場する可能性があります。「信頼性」「冗長性」というキーワードを見たら、メッシュ型を連想できるようにしておきましょう。
6.2 スター型の進化系「ツリー型(ハイブリッド型)」
(最上位に「コア層」のスイッチ、その下に「ディストリビューション層」のスイッチ、さらにその下に「アクセス層」のスイッチがぶら下がり、末端のPCに繋がっている階層的な図)
ツリー型は、スター型を複数組み合わせて階層構造にしたトポロジーです。ハイブリッド型(複数の基本トポロジーを組み合わせた形)の代表例で、木の枝葉のように広がることからこの名前がついています。
- メリット:大規模ネットワークへの対応力
スター型の「拡張のしやすさ」というメリットを活かし、非常に大規模なネットワークを効率的に構築できます。多くの企業や大学のキャンパスLANは、このツリー型をベースにした階層型ネットワークで設計されています。 - デメリット:上位階層への依存
スター型と同じく、上位のスイッチが故障すると、その配下にあるすべての機器が通信できなくなります。特に、木の根元にあたる「コアスイッチ」はSPOF(単一障害点)になりやすいため、通常は二重化して信頼性を高めます。
出題予想ポイント:
「大規模なLANの設計に適したトポロジーはどれか」といった問題で問われる可能性があります。また、ネットワークの階層構造(コア層、ディストリビューション層、アクセス層)の役割と絡めて、その設計思想を問うような、より高度な問題も考えられます。
基本の3つに、この「メッシュ型」と「ツリー型」を加えた5つのトポロジーを理解しておけば、試験対策は万全です!
【7. 知識を体系化する関連マップ】
これまでに5つのトポロジーを学びましたが、それらは実際のネットワークでどのように使われているのでしょうか。知識を整理し、使える武器に変えていきましょう。
7.1 LAN/WANでの採用例 ~どこでどの形が使われる?~
- LAN (Local Area Network) の世界
- 家庭やオフィス、ビル内など、限定された範囲のネットワークであるLAN。ここで圧倒的な主流となっているのがスター型、そしてそれを拡張したツリー型です。
なぜなら、PCの増減が激しいLAN環境では、拡張のしやすさと管理のしやすさが何よりも重視されるからです。1台のPCのトラブルが全体に影響しない耐障害性の高さも、ビジネスの現場では必須の要件ですね。
ちなみに、はるか昔のLANでは、コストの安さからバス型が使われていた時代もありました。 - WAN (Wide Area Network) の世界
- 東京本社と大阪支社を結ぶなど、地理的に離れた拠点を繋ぐWANの世界では、目的やコストに応じて様々なトポロジーが使い分けられます。
- スター型(ハブ&スポーク): コストを重視する場合、データセンターなどの中心拠点(ハブ)を1つ決め、そこから各拠点(スポーク)へ放射状に接続するスター型がよく採用されます。
- メッシュ型: 信頼性が最重要視される拠点間(例えば、メインとバックアップのデータセンター間)では、複数の通信会社の回線を組み合わせて網の目のように接続するメッシュ型が採用されます。コストは高いですが、最強の冗長性を誇ります。
7.2 物理トポロジーと論理トポロジー ~見た目と実際の流れは違う?~
最後に、ネットワークの理解を一段深めるための、少し専門的な話をします。実はトポロジーには2つの側面があるのです。
- 物理トポロジー:機器やケーブルが物理的にどう繋がっているかという「見た目の配線」。私たちがこれまで学んできたスター型やバス型は、主にこちらを指します。
- 論理トポロジー:配線がどうであれ、データが論理的にどう流れていくかという「データの流れの形」。
そして、この「物理」と「論理」は、必ずしも一致しないという点が非常に面白いポイントです。
- 例1:見た目はスター、流れはバス
- 昔使われていた「リピータハブ」という集線装置を使ったスター型ネットワーク。これは物理的にはスター型ですが、リピータハブは賢くないので、受け取ったデータをすべての端末にそのまま転送(ブロードキャスト)します。このデータの流れ方は、まさにバス型そのもの。これを「論理バス」と呼びます。
- 例2:見た目はスター、流れはリング
- トークンリングという規格でも、管理のしやすさから、実際にはMAU(集線装置)を使って物理的にはスター型で配線することがありました。しかし、MAUの内部でうまく処理することで、データはきちんとリング状に順番に流れていきます。これは「物理スター、論理リング」の良い例です。
(左に「物理スター・論理バス」の図、右に「物理スター・論理リング」の図を並べ、見た目とデータの流れの違いを可視化する)
応用情報や高度試験では、この物理と論理の違いを理解しているかを問う問題が出されることがあります。「見た目とデータの流れは別物」という視点を持っておくと、より深いレベルでネットワークを分析できるようになりますよ。
【8. あなただけの学習ロードマップ】トポロジーの次は何を学ぶ?
ネットワークトポロジーを理解したあなたは、いわば「街の地図」を手に入れた状態です。素晴らしい成果です!
次のステップは、その地図をより詳細に読み解くために、個々の「交差点(ネットワーク機器)」の仕組みや、「交通ルール(冗長化技術)」について学んでいくことです。あなたの興味に合わせて、2つの探検ルートを用意しました。
ルートA:ネットワーク機器の『中身』を探るルート
こんなあなたへ:「スター型の中心にいたスイッチって何者?」「バス型で問題になったコリジョンって、スイッチはどうやって解決してるの?」といった、機器の働きに興味が湧いた方向けです。
- OSI参照モデルとTCP/IPモデル
まずはネットワーク世界の共通言語を学びましょう。特に、トポロジーと深く関わるのは第2層「データリンク層」と第3層「ネットワーク層」です。この階層の役割がわかると、機器の働きがクリアに見えてきます。 - スイッチ(L2スイッチ)の仕組み
スター型の司令塔の正体です。「MACアドレス」という住所を学習し、宛先のPCにだけデータを届ける賢い交通整理の仕組みは、感動ものですよ。 - ルータ(L3スイッチ)の仕組み
異なるネットワーク(例えば社内LANとインターネット)を繋ぐための重要な機器。「IPアドレス」を見て、最適な経路を判断する「ルーティング」の仕組みは、ネットワークの根幹をなす技術です。 - コリジョンドメインとブロードキャストドメイン
バス型で頻発したデータの「衝突」。スイッチやルータが、この衝突が起きる範囲(ドメイン)をどのように分割し、ネットワーク全体の効率を高めているのかを学びます。これを理解すれば、あなたも立派なネットワーク設計者の一歩を踏み出せます。
ルートB:ネットワークの『信頼性』を高めるルート
こんなあなたへ:「単一障害点(SPOF)をなくすには、具体的にどうするの?」「絶対に切れないネットワークはどうやって作るの?」といった、ネットワーク全体の安定性や安全性に興味を持った方向けです。
- STP (スパニングツリープロトコル)
スイッチでわざとループ構成(物理的な輪)を作って冗長性を高めたい。でも、そのままではデータが無限にループして大障害に…。この矛盾を解決し、通常時はループをブロックしつつ、障害時に自動で迂回路に切り替える魔法のようなプロトコルです。 - リンクアグリゲーション
複数のケーブルを論理的に束ねて、1本の極太ケーブルとして扱う技術です。通信速度を向上させながら、1本のケーブルが切れても残りのケーブルで通信を継続できる、一石二鳥の信頼性向上策です。 - VRRP / HSRP (仮想ルータ冗長プロトコル)
インターネットへの出口であるルータがSPOFになるのを防ぐ技術。2台のルータを仮想的に1台に見せかけ、メインのルータが故障したら、即座に待機系のルータに切り替わる仕組みを学びます。
このロードマップを参考に、あなたの知的好奇心が向かう方へ、一歩ずつ進んでみてください。学習は一直線である必要はありません。寄り道や道草も、あなただけの貴重な知識の地図の一部になりますよ!
【9. 理解度チェック&チャレンジクイズ】
さあ、この記事で学んだ知識をフル活用して、腕試しに挑戦してみましょう。あなたがネットワーク設計者なら、どう考えますか?
QUIZ 1:とにかく安く、早く!
シナリオ:
あなたは、来週開催される小規模なIT勉強会(参加者10名)のために、一時的なネットワークを設営することになりました。とにかく予算を最小限に抑え、手早く設営したいと考えています。この場合、どのトポロジーの考え方をベースにするのが最も適切でしょうか?
- 中心に高価なスイッチを置くスター型
- 1本のケーブルを共有するバス型
- 信頼性重視のメッシュ型
解答・解説を見る
解答:2. 1本のケーブルを共有するバス型
解説:
ポイントは「予算を最小限」「手早く設営」という点です。バス型は集線装置が不要で、ケーブル長も短く済むため、このような小規模かつ一時的な設営でコストを最優先する場合には、その考え方が最も適しています。
(※もちろん、現代では中古のスイッチが安価に手に入るため、実際にはスター型で組むことが多いですが、ここではトポロジーの原則的な特性を問う問題として捉えてくださいね)
QUIZ 2:止まらない、成長できるオフィスLAN
シナリオ:
あなたは、新設される本社の基幹LANを設計する責任者です。要件は以下の通りです。
- 将来的に社員が増えることを見越して、PCの増設が容易であること。
- 1台のPCの故障が、他の社員の業務に影響を与えないこと。
- ネットワーク全体の障害箇所を特定しやすいこと。
この要件を最も満たすトポロジーはどれですか?
- バス型
- スター型
- リング型
解答・解説を見る
解答:2. スター型
解説:
「増設が容易」「故障の影響が限定的」「障害箇所の特定が容易」これらはすべてスター型の持つ大きなメリットです。スイッチの空きポートに挿すだけで増設でき、PCとスイッチが1対1で接続されているため、障害の影響範囲が限定され、問題の切り分けもしやすいですね。まさに現代のオフィスLANに最適なトポロジーと言えます。
全問正解できましたか?もし間違えてしまっても大丈夫です。大切なのは、なぜその答えになるのか、もう一度関連するセクションを読み返して、自分の言葉で説明できるようになることですよ!
【10. 最終チェックとまとめ】
長いネットワーク探検の旅、本当にお疲れ様でした!最後に、私たちが冒険してきたトポロジーの世界を、一枚の「総まとめ表」で振り返りましょう。この表は、あなたの知識の集大成です。
ネットワークトポロジー総まとめ表
トポロジー | キャッチコピー | コスト | 耐障害性 | 拡張性 | 主な活躍場所 | 重要キーワード |
---|---|---|---|---|---|---|
バス型 | 一本道にみんなで相乗り! | ◎ 低 | × 弱い | × 困難 | 旧式のLAN | ターミネータ, コリジョン |
スター型 | 中心の司令塔におまかせ! | ○ 中 | ○ 強い(中心はSPOF) | ◎ 容易 | 現代のLAN | スイッチ, ハブ, 1対1接続 |
リング型 | みんなで手をつなぐ輪! | ○ 中 | △(二重化で向上) | × 困難 | FDDIなど | トークンパッシング, 一方向 |
メッシュ型 | 究極の冗長性! | × 高 | ◎ 非常に強い | △(コスト次第) | WAN, インターネット基幹網 | 信頼性, 冗長性, 網の目 |
ツリー型 | スター型の進化系! | △ 中~高 | ○ 強い(上位はSPOF) | ◎ 非常に高い | 大規模LAN | 階層構造, ハイブリッド |
※スマホの場合は横にスクロールできます
この表を自分の言葉で、背景にある「なぜ?」まで含めて説明できるようになったなら、あなたはもうトポロジーマスターです。
しかし、これはゴールではありません。むしろ、ネットワークという広大で面白い世界への、新しいスタート地点に立ったということです。
今回手に入れた「なぜ?」を考える設計者の視点を武器に、これからも尽きない知的好奇心を持って、学びを楽しんでいってください。
あなたのIT学習の旅が、実り多く、素晴らしいものになることを心から願っています。
また次のテーマで、一緒に学べる日を楽しみにしていますね!