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ネスペ午後対策】ネットワーク評価と改善提案の技術!客観的データで価値を示す

日々の運用・管理業務を通じて、ネットワークの様々なデータが蓄積されてきました。しかし、そのデータをただ眺めているだけでは、宝の持ち腐れです。ネットワークライフサイクルの最終章である「評価」フェーズでは、これらの客観的データを元にシステム全体の健康状態を総合的に診断し、将来のビジネス成長に貢献するための「改善提案」へと繋げていきます。

本記事では、この評価と改善提案の技術に焦点を当てます。「なんとなく遅い」といった感覚的な問題提起ではなく、データという客観的な事実に基づいて「ネットワークの価値」を証明し、次の投資を引き出すための思考法とドキュメント作成術を解説します。

これは、エンジニアが技術力だけでなく、ビジネス貢献という視点も問われるネスペ午後試験のシナリオにも通じる、極めて重要なスキルです。

システム評価│客観的データに基づく現状の採点

システム評価とは、これまでの運用・管理で収集したデータを元に、ネットワーク全体が「現在どのような健康状態にあるか」を客観的に判断し、点数をつける活動です。感覚的な良し悪しではなく、事実(データ)に基づいて価値を判断する点が重要です。

「分析」と「評価」の違い

これまで解説してきた「分析」と「評価」は似て非なるものです。

  • 分析 (Analysis): データを分解し、事実や傾向を把握すること。「インターネット回線のトラフィックは、過去3ヶ月で20%増加している」という事実を見つけ出す活動。
  • 評価 (Evaluation): 事実を元に、ある基準に照らして価値を判断すること。「トラフィックが20%増加した結果、契約帯域の90%に達しており、これは性能劣化のリスクが高い『悪い状態』である」と判断する活動。

評価を行うことで、単なる事実の羅列が、具体的なアクションに繋がる「意味のある情報」に変わるのです。

評価の4つの観点

ネットワークを評価する際は、以下の4つの観点から総合的に診断するのが一般的です。

評価の観点 評価内容の例
性能 (Performance) 平常時やピーク時の応答時間、スループットが、要件定義で定めた基準(SLA)を満たしているか。
能力・容量 (Capacity) ネットワーク機器のCPU/メモリ、回線帯域に将来のトラフィック増に対応できるだけの余力があるか。
セキュリティ (Security) 既知の脆弱性が放置されていないか。最新の脅威動向に対し、現在のセキュリティ対策で十分か。
コスト (Cost) 現在の保守費用や回線費用は、市場の相場と比較して妥当か。費用対効果は適切か。

評価レポートの作成

これらの評価結果は、「システム評価報告書」として文書化します。単に文章で記述するのではなく、以下のような工夫で、問題点や潜在的なリスクを誰にでも分かりやすく「見える化」することが重要です。

  • グラフの活用: トラフィック量の推移やCPU使用率の変動をグラフで示し、将来予測の線などを書き加える。
  • 色分け: ネットワーク構成図上で、リスクの高い機器や回線を赤色で示すなど、視覚的に問題を伝える。

この客観的なデータに裏打ちされた評価報告書が、次の「システム改善提案」の強力な根拠となります。

システム改善提案│投資価値を伝えるストーリー作り

評価レポートで明らかになった課題を解決し、ネットワークをより良い状態にするための具体的な計画をまとめたものが「システム改善提案書」です。この提案書の目的は、単に技術的な解決策を示すだけでなく、なぜその投資が必要なのか、それによってどのようなビジネス上のメリット(価値)があるのかを伝え、関係者、特に経営層から承認を得ることにあります。

改善提案に盛り込むべきストーリー要素

優れた改善提案は、読み手が納得しやすい「ストーリー」になっています。以下の4つの要素を盛り込み、論理的に構成することが重要です。

【仕事例】「インターネット回線の増強」を提案する場合

構成要素 内容 提案書の記述例
1. 現状の課題 評価レポートに基づき、現状の問題点と、それがビジネスに与えている悪影響を具体的に示す。 「現在、日中のWeb会議で頻繁な映像の途切れが発生しており、重要な顧客との商談に支障が出ています。」
2. 解決策 課題を解決するための具体的な技術的アプローチを提示する。複数の選択肢がある場合は、比較検討(メリット・デメリット)を示す。 「解決策として、現在の1Gbpsのインターネット回線を、10Gbpsの広帯域回線へ増強することを提案します。」
3. 投資対効果 (ROI) 提案の実行に必要な費用(投資)と、それによって得られる効果(リターン)を可能な限り定量的に示す。 「初期投資として50万円が必要ですが、これにより商談の機会損失(年間推定200万円)を防ぎ、全社の生産性向上に繋がります。」
4. 将来性・拡張性 この改善が、将来のビジネス展開や技術動向にどう貢献するかを示す。 「この帯域は、今後3年間で予測されるトラフィック増にも十分対応可能であり、将来的なクラウドサービスの全面導入にも備えられます。」

提案を通すためのポイント

最終的な意思決定者である経営層は、必ずしもITの専門家ではありません。したがって、提案書を作成する際は以下の点を意識する必要があります。

  • 専門用語を避ける:
    「スループット」「レイテンシ」といった技術用語は避け、「通信速度」「応答時間」といった平易な言葉に置き換える。
  • ビジネスの言葉で語る:
    技術的な優位性よりも、「コスト削減」「生産性向上」「顧客満足度向上」といった、ビジネス上のメリットを前面に押し出す。

【身近な例え】
医者が患者に手術を勧める際、難解な医学用語ばかり並べるのではなく、「この手術をすれば、元の健康な生活に戻れますよ」と、患者にとってのメリットを分かりやすく伝えますよね。それと同じで、相手の立場に立った言葉選びが、提案の承認を得るための鍵となります。

まとめ

今回は、ネットワークライフサイクルの締めくくりとなる「評価」と、未来へ繋げる「改善提案」について解説しました。

  1. システム評価: 日々の運用・管理で得た客観的データに基づき、ネットワークの現在の健康状態に明確な「成績」をつける活動。
  2. システム改善提案: その評価結果を根拠に、課題解決とビジネスへの貢献というストーリーを描き、次の投資を引き出す活動。

この「評価→提案」というサイクルを回す力は、単なるネットワークの維持管理者から、ビジネスの成長をITインフラの側面から支える戦略的なパートナーへとエンジニアを昇華させます。

そして、この提案活動で培った知見は、次の最終回で解説する、より専門的な「コンサルティング」の領域へと繋がっていきます。

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