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【ネスペ午後対策】Wi-Fi 6, BLE, マルチキャストの重要技術を解説

スマートフォンやPCだけでなく、家電やセンサーといった無数のデバイスがネットワークに接続される現代において、ワイヤレス技術の役割はますます重要になっています。ネットワークスペシャリスト試験でも、単にWi-Fiの規格を暗記するだけでは対応できない、より実践的な知識が問われるようになりました。

例えば、「Wi-Fi 6の コア技術であるOFDMAとMU-MIMOは、通信をどう効率化するのか」「IoTで多用されるBLEとWi-SUNは、どのような基準で使い分けられるのか」「特定のグループにだけ映像を配信したい場合、なぜマルチキャストが必要なのか」。これらの技術背景を、体系的に説明できますか?

本記事では、近年のネットワーク環境を支える「無線LAN」「IoT無線」「マルチキャスト」という3つの柱に焦点を当て、それぞれの代表的な技術を基礎から徹底解説します。Wi-Fiのセキュリティと最新規格、省電力無線、そして効率的な一斉配信の仕組みまで、この記事一本で網羅的に学習していきましょう。


Wi-Fiセキュリティの進化│WPA/WPA2におけるTKIPの脆弱性とAESの重要性

無線LAN(Wi-Fi)は、その利便性の裏側で常に盗聴や不正アクセスといった脅威に晒されています。そのため、通信を保護する暗号化は極めて重要です。ここでは、Wi-Fiセキュリティ規格の変遷と、現在使われている技術の安全性の根拠について解説します。

暗号化方式の変遷:WEPの脆弱性からWPAへ

Wi-Fiセキュリティの黎明期には WEP (Wired Equivalent Privacy) という規格が使われていました。しかし、WEPは暗号鍵の生成方法に致命的な欠陥があり、現在では数分もあれば容易に解読されてしまうため、絶対に使用してはいけません

このWEPの脆弱性を受けて、より強固なセキュリティ規格として登場したのが WPA (Wi-Fi Protected Access) です。WPAは、暫定的な措置として、従来のWEP対応ハードウェアでもファームウェアのアップデートで対応できるように設計されました。

過渡期の技術 TKIP とその脆弱性

WPAでは、暗号化プロトコルとして TKIP (Temporal Key Integrity Protocol) が採用されました。TKIPは、WEPの弱点を補強する以下の仕組みを持っていました。

  • 動的な暗号鍵: WEPでは固定だった暗号鍵を、パケットごとに自動的に変更する。
  • MIC (Message Integrity Check): パケットが途中で改ざんされていないかをチェックする。

これらの改良により、WEPに比べて安全性は大きく向上しました。しかし、TKIPはあくまでWEPの仕組みを基礎として改良された応急処置的な技術であったため、後に新たな脆弱性が発見されました。現在ではTKIPも安全とは言えず、利用は推奨されていません。

現在の標準:WPA2/WPA3とAES

TKIPの課題を根本的に解決し、本格的なセキュリティを実現したのが WPA2 です。WPA2では、暗号化プロトコルとしてTKIPではなく、AES (Advanced Encryption Standard) が採用されました。

AESは、米国政府にも採用されている非常に強固な共通鍵暗号方式です。TKIPのように既存の技術の改良ではなく、初めからセキュリティを最優先に設計されているため、既知の脆弱性は存在しません。WPA2では、このAESをベースとしたCCMPというプロトコルが使われています。

現在ではさらに後継のWPA3も登場しており、セキュリティがより強化されていますが、ネットワークスペシャリスト試験対策としては、「WPA2-AES (CCMP)」が現在のWi-Fiセキュリティの標準であると理解しておくことが重要です。

【実生活での例え】🔐

  • WEP: 誰でも同じ形の簡単な鍵で開けられる南京錠。
  • WPA (TKIP): 見た目は同じ南京錠だが、開けるたびに鍵の形が少しだけ変わる仕組み。最初は防げたが、鍵の変わり方に法則があることがバレてしまった。
  • WPA2 (AES): 電子認証付きの頑丈な金庫。設計思想が根本から異なり、現時点では破ることが極めて困難。
規格 暗号化プロトコル 安全性
WEP WEP 危険 (使用禁止)
WPA TKIP (必須) 脆弱 (非推奨)
WPA2 AES (CCMP) (必須) / TKIP(互換用) 安全 (現在の標準)
WPA3 AES (CCMP) / GCMP より安全 (次世代標準)

高速・多台数接続を実現するWi-Fi 6│OFDMAとMU-MIMOの仕組み

Wi-Fiの世代が新しくなるにつれて、通信速度(スループット)は向上してきました。しかし、スマートフォンやIoTデバイスなど、Wi-Fiに接続される端末の数が爆発的に増えたことで、「多台数の端末が同時に通信した際の効率」が新たな課題となりました。Wi-Fi 6 (IEEE 802.11ax)は、この課題を解決し、実利用環境でのパフォーマンスを劇的に向上させる技術です。

Wi-Fi 6が目指すもの:速度から「効率」へ

これまでのWi-Fi規格(Wi-Fi 5など)が、一台あたりの理論上の最大速度を追求してきたのに対し、Wi-Fi 6は「大勢が同時に使っても遅くならない」という効率性を重視しています。空港や駅、スタジアムのように多数の人が密集する場所でも、安定した通信を提供することが主な目的です。その核心となる技術が、OFDMAMU-MIMOです。

周波数利用効率を高めるOFDMA

OFDMA (Orthogonal Frequency Division Multiple Access)は、電波の"道幅"(周波数帯域)を細かく分割し、複数の端末に同時に割り当てる技術です。

これまでのOFDM(Wi-Fi 5などで採用)では、一台のトラック(通信)が道幅を完全に専有していました。小さな荷物(データ)しか運ばないのに、大きなトラックが道を独占していたため、他のトラックはずっと待たなければならず、非効率でした。

OFDMAでは、一台のトラックの荷台を複数のスペースに分割し、Aさんの荷物、Bさんの荷物、Cさんの荷物を相乗りさせるようなイメージです。一度の通信で複数端末の細かなデータをまとめて運べるため、電波の利用効率が格段に上がり、通信の待ち時間(遅延)が大幅に削減されます。

【実生活での例え】🚚

  • OFDM (従来): 1台の大型トラックが、たった1つの小さな荷物を運ぶために道路を独占している。他のトラックはその後ろで待つしかない。
  • OFDMA (Wi-Fi 6): 1台の大型トラックの荷台が仕切られており、A社、B社、C社の小さな荷物を同時に積んで運ぶ「乗り合い便」。道路の無駄遣いがなくなる。

複数端末との同時通信:MU-MIMO

MU-MIMO (Multi-User Multiple Input Multiple Output)は、アクセスポイントが持つ複数のアンテナを使い、複数の端末に向けて同時にデータを送信する技術です。

Wi-Fi 5でも下り(ダウンロード)のみ限定的に対応していましたが、Wi-Fi 6では上り(アップロード)にも対応し、同時通信できる端末数も増えました(最大8台)。これにより、動画のアップロードやオンラインゲームなど、複数端末が同時に大容量のデータを送信するような場面でも、通信が安定します。

【実生活での例え】🗣️

  • MIMO (従来): 受付係が、一人ずつ順番にお客さんの対応をする。
  • MU-MIMO (Wi-Fi 6): 複数の窓口を持つ受付係が、一度に複数のお客さん(端末)と、それぞれ別々の会話(通信)を同時に進める。

OFDMAが「通信の相乗り」で効率を上げるのに対し、MU-MIMOは「通信の同時並行処理」で効率を上げる技術です。Wi-Fi 6では、この2つの技術を組み合わせることで、多数のデバイスが接続される環境でも高いパフォーマンスを発揮するのです。


IoT時代を支える省電力無線技術│BLEとWi-SUNの違いと特徴

あらゆるモノがインターネットに繋がるIoT (Internet of Things) 時代では、膨大な数のセンサーやデバイスを常時接続するために、「省電力」であることが無線技術の重要な要件となります。ここでは、IoT分野で活躍する代表的な省電力無線技術であるBLEWi-SUNについて、その特徴と違いを解説します。

近距離デバイス接続のデファクトスタンダード:BLE

BLE (Bluetooth Low Energy)は、私たちが普段スマートフォンでイヤホンやスピーカーを接続するのに使うクラシックBluetoothとは異なり、極限まで消費電力を抑えることに特化した通信規格です。

ボタン電池一つで数ヶ月〜数年も稼働できるほどの省電力性能を誇り、常時接続ではなく必要な時だけ素早くデータを送受信する、といった使い方に向いています。通信速度はそれほど速くありませんが、キーボード、マウス、スマートウォッチ、忘れ物防止タグ、各種センサーなど、近距離(数m〜数十m)で少量のデータをやり取りするデバイスの接続に最適化されています。

【実生活での例え】🗣️

  • クラシックBluetooth: 友人との電話。常につながっていて、リッチな音声データをリアルタイムでやり取りするが、スマートフォンのバッテリーはどんどん減っていく。
  • BLE: 友人との短文のメッセージ交換。要件だけを伝え、すぐに通信を終える。バッテリー消費はごくわずか。

スマートメーターで活躍する特定小電力無線:Wi-SUN

Wi-SUN (Wireless Smart Utility Network)は、BLEよりも長い数百m〜数kmの通信距離を持つ、日本の電波法に準拠した特定小電力無線通信規格です。

最大の特徴は、複数の端末がバケツリレー式にデータを中継して網目状のネットワークを形成するマルチホップ通信(メッシュネットワーク)に対応している点です。これにより、一つの親機から遠く離れた場所にある子機とも安定した通信が可能となります。この特性から、電力やガス、水道などのスマートメーターの検針データを、各家庭のメーターを経由させながら自動的に収集するシステム(スマートグリッド)に広く採用されています。

BLEとWi-SUNの比較

両者は同じ「省電力無線」というカテゴリですが、その得意分野は明確に異なります。

比較項目 BLE (Bluetooth Low Energy) Wi-SUN
主な用途 ウェアラブル端末、センサー、タグ スマートメーター、防災・インフラ監視
通信距離 短距離 (数m ~ 数十m) 中距離 (数百m ~ 数km)
ネットワーク形態 1対1、1対多(スター型) 1対多、多対多(メッシュ型)
特徴 圧倒的な省電力性、スマホとの連携 マルチホップによる広範囲通信

ネットワークスペシャリスト試験では、与えられた要件(通信距離、デバイスの数、電源の制約など)に対して、どちらの技術が最適かを選択・説明できるかが問われます。


効率的な一斉データ配信│マルチキャストルーティング PIM-SMとSSM

ネットワーク上で、特定の複数拠点に向けて同時に映像や音声データを配信したい場合、どのような方法が考えられるでしょうか。拠点ごとに個別の通信(ユニキャスト)を行うのは非効率ですし、無関係な拠点も含めた全体に配信(ブロードキャスト)するのは帯域の無駄遣いです。この課題を解決するのがマルチキャストです。

マルチキャスト通信の基本

マルチキャストは、特定のグループに参加しているメンバーにだけ、データを一斉に送り届ける通信方式です。送信者は一度データを送信するだけで、ネットワーク上のルーターがパケットを適切に複製し、必要な拠点にのみ届けてくれます。これにより、送信者とネットワークの負荷を大幅に軽減できます。

このマルチキャストを実現するためには、ルーター同士が「どの先にグループメンバーがいるのか」を学習するためのマルチキャストルーティングプロトコルが必要です。その代表的なものがPIM (Protocol Independent Multicast)です。

代表的なプロトコル:PIM-SM

PIM-SM (Protocol Independent Multicast - Sparse Mode)は、その名の通り、グループメンバーがネットワーク内にまばらに(Sparse)存在する場合に適したモードです。

PIM-SMでは、ランデブーポイント (RP)と呼ばれる特定のルーターが中心的な役割を果たします。

  1. 送信者側: データを送りたい送信者は、まずRP宛にマルチキャストパケットを送ります。
  2. 受信者側: グループに参加したい受信者は、最寄りのルーターを通じてRPに「そのグループのデータが欲しい」と登録します。
  3. RP: 送信者からのデータを受け取ると、登録されている受信者グループに向けてデータの配信を開始します。

最初は必ずRPを経由しますが、その後はルーター間で最適経路を計算し、RPを介さない最短経路での配信に切り替わる仕組みになっています。

【実生活での例え】CPN

PIM-SMは「雑誌の定期購読」システムです。

  • 送信者: 出版社(送信者)は、新刊の雑誌をすべて取次店(RP)に送ります。
  • 受信者: 読者(受信者)は、近所の書店(最寄りルーター)に「〇〇という雑誌を定期購読したい」と申し込みます。書店は取次店にその旨を伝えます。
  • RP: 取次店は、申し込みのあった書店にだけ雑誌を配送します。

よりシンプルなモデル:SSM

SSM (Source-Specific Multicast)は、PIM-SMをよりシンプルにし、セキュリティを向上させたモデルです。

SSMの最大の特徴は、受信者がグループに参加する際に、グループアドレスだけでなく、データを送ってくる送信者のIPアドレスも指定する点です。これにより、受信者は「誰々さん(送信元)が送ってくる、このグループのデータだけが欲しい」と明確に意思表示できます。

この仕組みにより、PIM-SMで必要だった複雑なRPの仕組みが不要になります。また、意図しない送信者からのデータを最初から受け付けないため、セキュリティも向上します。ライブ配信など、送信元が決まっている一方向の配信サービスに適しています。

プロトコル 特徴 用途
PIM-SM ランデブーポイント(RP)が中継役 不特定の送信者がいる多対多の通信
SSM 受信者が送信元(Source)を特定 送信元が限定的なライブ配信など(1対多)

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