ネットワークの学習で多くの初学者が最初につまずくのが、「サブネットマスク」と「ネットワークアドレス」の関係性です。
「IPアドレスが 172.30.123.45
で、サブネットマスクが 255.255.252.0
のとき、なぜネットワークアドレスは 172.30.120.0
になるの?」
こんな疑問を持ったことはありませんか?参考書を開くと難しい2進数の計算が出てきて、諦めてしまった方もいるかもしれません。
ご安心ください。この記事では、ややこしい2進数の計算(AND演算)を一切使わずに、サブネットマスクの仕組みとネットワークアドレスの求め方を解説します。図解と「住所」に例えた具体的な話で、直感的に理解できる方法だけをご紹介。
読み終える頃には、IPアドレスとサブネットマスクの数字を見ただけで、そのコンピューターが属するネットワークの範囲がイメージできるようになります。まずは「ネットワーク部」と「ホスト部」という基本の考え方から、一歩ずつ見ていきましょう。
目次
サブネットマスクの役割とは?IPアドレスの「ネットワーク部」と「ホスト部」を分ける境界線
サブネットマスクの役割は、一言でいうとIPアドレスを2つの領域に区切るための「境界線」です。その2つの領域とは、ネットワーク部とホスト部です。
これは、私たちが使う「住所」に例えると非常に分かりやすくなります。
- ネットワーク部:住所でいう「市区町村」まで(例:東京都渋谷区)
- ホスト部:住所でいう「番地や部屋番号」以降(例:神南1丁目19-11)
「東京都渋谷区」という大きなグループ(ネットワーク)の中に、「神南1丁目19-11」という個別の建物(ホスト)が存在するイメージです。IPアドレスも同様に、どのネットワークに属しているかを示すネットワーク部と、そのネットワーク内のどの機器(PCやスマホ)かを示すホスト部に分かれています。
そして、その境界線を示しているのがサブネットマスクなのです。
サブネットマスクの数字が示すもの
サブネットマスクは、255.255.255.0
のような数字で表されます。この「255」が並んでいる部分がネットワーク部、「0」の部分がホスト部に対応します。
255.255.255.0
の場合、第3オクテット(3番目の数字のブロック)までがネットワーク部、最後の第4オクテTットがホスト部となり、境界線が分かりやすいですね。
【図解:IPアドレスとサブネットマスクの関係】
- IPアドレス:
192.168.1.10
- サブネットマスク:
255.255.255.0
- 境界線:
255
と0
の間192.168.1
までがネットワーク部(市区町村).10
がホスト部(番地)
では、今回のテーマである 255.255.252.0
はどうでしょう。
255
でも0
でもない「252」という数字が第3オクテットにあります。これは、オクテットの途中に境界線が引かれていることを意味します。
この中途半端に見える数字こそが、ネットワークの大きさを柔軟に決めるための重要なカギとなります。次のセクションで、この数字からネットワークの範囲を特定する「ブロックサイズ」という考え方を見ていきましょう。
ネットワークアドレスを求める鍵「ブロックサイズ」とは?暗算できる計算式
前のセクションで、255.255.252.0
の「252」という数字が、オクテットの途中で境界線を示していると解説しました。
この境界線がどこなのかを特定し、ネットワークアドレスを簡単に見つけるための便利な考え方が「ブロックサイズ」です。ブロックサイズとは、ネットワークがどれくらいの間隔で区切られているかを示す「かたまりの大きさ」だと思ってください。
このブロックサイズは、非常に簡単な引き算で求められます。
ブロックサイズの計算式
計算式: 256 - (サブネットマスクの該当オクテットの値)
なぜ「256」から引くのかというと、IPアドレスの各オクテットで使える数字が 0
から 255
までの256個だからです。
今回のサブネットマスク 255.255.252.0
で、境界線があるのは第3オクテットの「252」でしたね。これを式に当てはめてみましょう。
256 - 252 = 4
ブロックサイズは「4」と分かりました。
ブロックサイズ「4」の意味
これは、「第3オクテットが4の倍数(0, 4, 8, 12, ...)になるタイミングで、新しいネットワークに切り替わる」ということを意味します。
住所の例えでいうと、「4丁目ごとに新しい町内会に分かれる」というルールのようなものです。では、IPアドレス 172.30.123.45
の第3オクテット「123」が、どのブロック(町内会)に属するのかを見てみましょう。
第3オクテットの範囲 | 対応するネットワークアドレス | 備考 |
---|---|---|
0 〜 3 | 172.30.0.0 |
4 × 0 = 0 |
4 〜 7 | 172.30.4.0 |
4 × 1 = 4 |
8 〜 11 | 172.30.8.0 |
4 × 2 = 8 |
... | ... | ... |
120 〜 123 | 172.30.120.0 |
← 123 はこの範囲に含まれる! |
124 〜 127 | 172.30.124.0 |
4 × 31 = 124 |
... | ... | ... |
上の表の通り、123
は「120〜123」のブロックに含まれます。したがって、このブロックの開始アドレスである 172.30.120.0
が、IPアドレス 172.30.123.45
のネットワークアドレスとなるのです。
このように、ブロックサイズの考え方を使えば、2進数が分からなくても直感的にネットワークアドレスを求められます。
ネットワークの範囲を確認する方法│ホストアドレスとブロードキャストアドレス
ブロックサイズの計算によって、IPアドレス 172.30.123.45
が属するネットワークの開始点、すなわちネットワークアドレスが 172.30.120.0
であることが分かりました。
では、このネットワークには、実際にPCやスマートフォンなどの機器に割り当てられるIPアドレスがいくつあり、その範囲はどこからどこまでなのでしょうか?
それを知るためには、特別な役割を持つ2つのアドレスを理解する必要があります。
- ホストアドレス: ネットワーク内の個々の機器に割り当てられるIPアドレス。
- ブロードキャストアドレス: ネットワーク内の全ての機器に一斉送信するための特別なIPアドレス。
これらは、ネットワークアドレスを含めた3点セットで「ネットワークの範囲」を示します。
ネットワーク範囲の求め方
範囲を求めるのに、複雑な計算は必要ありません。次のネットワークが始まる直前までが、現在のネットワークの範囲だからです。
- 現在のネットワークアドレス:
172.30.120.0
(ブロックサイズ4
の倍数) - 次のネットワークアドレスを特定:
現在のネットワークの第3オクテット120
に、ブロックサイズ4
を足します。
120 + 4 = 124
つまり、次のネットワークは172.30.124.0
から始まります。 - ブロードキャストアドレスを特定:
次のネットワークアドレス(172.30.124.0
)の1つ手前が、現在のネットワークの終点、すなわちブロードキャストアドレスになります。
→172.30.123.255
これで開始点と終点が分かりました。
172.30.120.0
ネットワークの範囲まとめ
以上の結果をまとめると、172.30.120.0
のネットワークで利用できるアドレスの範囲は以下のようになります。
種類 | アドレス | 説明 |
---|---|---|
ネットワークアドレス | 172.30.120.0 |
ネットワーク全体を表すアドレス。機器には設定できない。 |
ホストアドレス範囲 | 172.30.120.1 ~ 172.30.123.254 |
実際にPCやサーバーに割り当て可能なIPアドレス。 |
ブロードキャストアドレス | 172.30.123.255 |
ネットワーク内の全機器への一斉配信用。機器には設定できない。 |
ネットワークアドレスとブロードキャストアドレスは特別な役割を持つため、機器に設定することはできません。実際に私たちが利用するのは、その間に挟まれたホストアドレスの範囲です。
なぜネットワークを分けるの?サブネット化の3つの目的とメリット
ここまでネットワークの分割方法について見てきましたが、「なぜ、わざわざ大きなネットワークを『サブネット化』という手法で小さく分割するのか?」という根本的な疑問が湧いてきますよね。
これは、会社で例えるなら「社員全員が1つの巨大なワンフロアで仕事をするのではなく、総務部・営業部・開発部のように部署ごとに部屋を分ける」のと同じ理由です。サブネット化には、主に3つの大きなメリットがあります。
1. 管理性の向上(セキュリティ強化)
ネットワークを部署や拠点ごとに分割することで、管理が非常にしやすくなります。
- 具体例: 「営業部のネットワーク」と「開発部のネットワーク」を分ければ、開発部の機密情報に営業部からはアクセスできないようにする、といったアクセス制御が容易になります。
- メリット: 万が一、どこかのネットワークでウイルス感染などのトラブルが発生しても、被害をそのサブネット内に食い止めやすくなり、ネットワーク全体のセキュリティが向上します。
2. パフォーマンスの向上(不要な通信の削減)
ネットワークを分けると、通信の効率性が高まります。その鍵となるのが「ブロードキャスト」です。
ブロードキャストとは、「ネットワーク内の全員に宛てた通信」のこと。もし会社全体が1つの巨大なネットワークだったら、1台のPCが発したブロードキャストが、関係ない部署を含む全社員のPCに届いてしまいます。これは、巨大なオフィスで誰かが「〇〇さーん!」と叫んだら、フロア中の全員が反応してしまうようなものです。
サブネット化でネットワークを小さく分けておけば、このブロードキャストが所属部署内だけで完結します。これにより、不要な通信(ノイズ)が減り、ネットワーク全体のパフォーマンスが向上するのです。
3. IPアドレスの節約
現在主流のIPアドレス(IPv4)は、約43億個しかなく、有限で貴重な資源です。
例えば、PCが30台しかない部署に、254個のIPアドレスが使える大きなネットワーク(255.255.255.0
)を丸ごと割り当ててしまうと、200以上のアドレスが使われずに無駄になってしまいます。
サブネット化によってネットワークのサイズを細かく調整し、「この部署には60個」「あちらの拠点には10個」というように、必要な数だけIPアドレスを無駄なく割り当てることができます。
このように、サブネット化はネットワークを効率的かつ安全に利用するための、賢い「仕切り術」なのです。
【用語整理】IPアドレス・ネットワークアドレス・ホストアドレスの違いとは?
ここまでで、「ネットワークアドレス」や「ホストアドレス」といった用語が出てきましたが、これらは似ているため混乱しやすいポイントです。
最後に、これまで見てきた 172.30.120.0
のネットワークを例に、それぞれの用語が指す範囲の違いを明確に整理しておきましょう。
プレフィックス表記(CIDR表記)について
その前に、IT系の資格試験や実務でよく使われる「プレフィックス表記(/22など)」にも触れておきます。これはサブネットマスクを短く表現する方法です。
255.255.252.0
は、2進数にすると「1」が22個並びます。
11111111.11111111.11111100.00000000
この「先頭から続く1の数」を使って、/22
と表記します。つまり、「255.255.252.0
」と「/22
」は全く同じ意味です。
用語の違いまとめ
これらの用語の関係は、「マンション全体」と「個々の部屋番号」に例えるとイメージしやすくなります。
用語 | 意味合い(マンションの例え) | 具体例 (172.30.120.0/22 の場合) |
---|---|---|
IPアドレスの範囲 | マンションの敷地全体(建物、庭、駐車場すべて) | 172.30.120.0 〜 172.30.123.255 |
ネットワークアドレス | マンション自体の住所(例:〇〇レジデンス) | 172.30.120.0 |
ホストアドレス | 実際に人が住む部屋番号(例:101号室、203号室) | 172.30.120.1 〜 172.30.123.254 |
ブロードキャストアドレス | 館内一斉放送(例:管理事務所からのアナウンス) | 172.30.123.255 |
IPアドレスという言葉は、これらすべてを指す広義な意味で使われることもありますが、特にホストアドレス(個別の機器に割り振るアドレス)を指して使われることが多いです。試験問題などでは、文脈からどの意味で使われているかを判断することが重要になります。
まとめ:サブネットマスクを読み解けばネットワークの地図が見える
今回は、初学者がつまずきやすいサブネットマスクとネットワークアドレスの求め方について、2進数計算を使わずに直感的に理解する方法を解説しました。
最初は複雑に見えるかもしれませんが、ポイントを押さえれば、サブネットマスクはネットワークの構成を示す便利な「地図」のように見えてきます。
最後に、重要なポイントを振り返りましょう。
- サブネットマスクの役割: IPアドレスをネットワーク部(住所の市区町村)とホスト部(番地)に分ける境界線です。
- ブロックサイズの計算: 境界がオクテットの途中にある場合(例:252)、「256 - マスク値」でブロックサイズを求められます。これがネットワークが切り替わる間隔になります。
- ネットワークアドレスの特定: IPアドレスがどのブロックに含まれるかを見ることで、そのIPアドレスが属するネットワークアドレス(ネットワークの開始点)が分かります。
- サブネット化の目的: パフォーマンスやセキュリティの向上、IPアドレスの節約のために、大きなネットワークを効率よく分割する賢い「仕切り術」です。
この「ブロックサイズ」の考え方に慣れれば、サブネット計算は暗算でもできるようになり、ネットワークの学習がぐっと楽になります。この記事が、あなたの理解の助けとなれば幸いです。