SaaS業界やIT企業の営業・マーケティング職に従事するビジネスパーソンから、「今の環境で働き続けていいのか迷う」という相談が増えています。業界全体の成長スピードが速い一方で、個人のキャリア構築においては「このままでは専門性が身につかないのではないか」「会社の看板がないと通用しないのではないか」といった不安がつきまとうのが現状です。
キャリアに迷いが生じるのは、自身の仕事や将来に対して真摯に向き合っている証拠でもあります。しかし、焦って転職を決断することだけが正解ではありません。現状の不満や不安の正体を客観的に分解し、「残るべきか、出るべきか」を冷静に判断する基準を持つことが先決です。
本稿では、SaaS・IT業界特有の構造的な課題を整理し、キャリアの分岐点となる判断軸について解説します。今すぐ動く必要はありません。まずはご自身の状況と照らし合わせ、現在地を確認するための材料として活用してください。
目次
SaaS営業・マーケ職がキャリアに不安を感じやすい理由
SaaS業界やITベンチャーは、一般的な事業会社と比較して変化が激しく、キャリアの「正解」が見えにくい環境にあります。多くの人が抱える不安の背景には、個人の能力不足ではなく、業界や職種特有の構造的な要因が存在することが少なくありません。ここでは主な3つの要因を整理します。
変化が速く「正解」が見えにくい業界構造
SaaSビジネスは「T2D3(5年で72倍の成長)」などの急成長モデルが称賛される一方で、プロダクトの寿命やトレンドの移り変わりが非常に速いという側面があります。
- 組織の流動性: 半年単位で組織図が変わり、上司や評価基準が頻繁に変更される。
- 事業フェーズの変化: 新規開拓重視のフェーズから、カスタマーサクセス重視へ移行するなど、求められる役割が短期間で変わる。
- プロダクトの統廃合: 企業のM&Aや事業撤退により、担当プロダクトが突然なくなるリスクがある。
こうした環境下では、長期的なキャリアパスを描きにくく、「今のスキルが5年後も通用するのか」という疑念が生じやすくなります。
市場価値が見えにくい職種問題
エンジニアやデザイナーであれば、制作物やコードといった「目に見える成果物」でスキルを証明しやすいですが、営業やマーケティング職はスキルの可視化が難しい傾向にあります。
特にSaaSの場合、「個人の営業力が高いから売れた」のか、「プロダクトの市場優位性が強かったから売れた」のかを切り分けることが困難です。転職市場においても、単なる「達成率」だけでなく、「どのようなプロセスで、どのような課題を解決したか」という再現性が問われます。今の実績が自分の実力によるものなのか確信が持てず、市場価値に対する不安を抱えるケースが多く見られます。
「今の延長線」に未来を描けない感覚
日々の業務がKPI(重要業績評価指標)の達成に終始し、単調な作業の繰り返しになっている場合、「成長の実感」が得られにくくなります。
- The Model型組織の弊害: 業務が細分化(インサイドセールス、フィールドセールス等)され、ビジネス全体を見通す経験が積みにくい。
- ロールモデルの不在: 若い組織が多く、30代・40代のキャリアパスを体現している先輩社員が周囲に少ない。
このように「今の業務を続けた先に、なりたい自分がイメージできない」という閉塞感が、漠然としたキャリア不安の正体であることは珍しくありません。
転職すべき人/すべきでない人の分岐点
「今の会社が嫌だ」という感情だけで転職に踏み切ると、同じ悩みを次の職場で繰り返すリスクがあります。一方で、これ以上留まることがキャリアにとってマイナスになる場合もあります。ここでは、転職を検討すべきか、現職で粘るべきかを分ける具体的な判断基準を提示します。
環境を変えた方がいいサイン
客観的に見て、本人の努力では状況改善が見込めない場合は、環境を変えることが合理的な選択肢となります。
- 評価制度の不透明さ: 定量的な成果を出しているにもかかわらず、評価が上司の主観や好き嫌いに依存しており、昇給・昇格の基準が曖昧な場合。
- 事業の将来性欠如: プロダクト自体の競争力が著しく低下しており、現場の工夫ではカバーできない「売れない構造」になっている場合。
- ハラスメントや過重労働: 心身の健康を損なうリスクがある環境は、キャリア以前の問題として早急な脱出が推奨されます。
特に「再現性のあるスキル」を身につけようとしても、組織の混乱により業務プロセスが定着しない環境では、時間の浪費になる可能性が高いと言えます。
まだ今の場所でやれるケース
「仕事がつまらない」「上司と合わない」といった理由でも、冷静に見れば現職で得られるメリットが残っている場合があります。
▼ 現職に留まる価値があるケース
| 状況 | 判断のポイント |
|---|---|
| 未経験分野への異動が可能 | 社内公募制度などで、営業からマーケティング、CSからPMMなどへキャリアチェンジできる可能性があるなら、転職リスクを負わずに職種転換できるチャンスです。 |
| 特定のスキル習得が途中 | 「マネジメント経験を1年は積む」「大型エンタープライズ案件をクロージングまでやりきる」など、明確な学習目標が達成できるまでは留まるのが得策です。 |
| 人間関係が良好 | 業務内容に不満があっても、周囲のサポートが得られる環境は貴重です。副業や自己研鑽でスキル不足を補い、現職を安定基盤として活用する戦略も有効です。 |
「向いてない」と「合ってない」は別物
キャリアに迷う際、多くの人が陥りやすいのが「自分はこの仕事に向いていない(能力不足)」という自責思考です。しかし、実際には「能力」ではなく「環境との相性(Fit)」の問題であるケースが多々あります。
- 向いていない: その職種に必要な基礎的な適性が著しく欠けている状態。
- 合っていない: 能力はあるが、会社の商材、ターゲット顧客、あるいはカルチャーが合わず、成果が出にくい状態。
例えば、論理的な提案が得意な人が、感情重視の営業スタイルを強要される組織にいれば成果は出にくくなります。これは能力不足ではありません。「今の環境が自分に合っていないだけではないか?」という視点を持つことで、転職の目的が「逃げ」から「適正な環境への移動」へと変わり、判断の精度が高まります。
市場価値を落とさないために今やるべきこと
「いつでも転職できる状態」を作っておくことは、精神的な安定剤になるだけでなく、現在の業務におけるパフォーマンス向上にも寄与します。市場価値を高め、維持するために、今すぐ始められるアクションがあります。
職務経歴を言語化できているか
多くのビジネスパーソンが、自身の経歴を過小評価、あるいは過大評価しがちです。市場価値を正しく把握するためには、職務経歴書(レジュメ)レベルでの言語化が不可欠です。
単に「売上目標を120%達成した」という結果だけでは不十分です。採用担当者や市場が知りたいのは、「なぜその結果が出たのか」というプロセスです。
- Before: 「〇〇システムの営業で年間売上1億円を達成」
- After: 「リードタイムが長期化しやすいエンタープライズ顧客に対し、決裁ルートを可視化する管理シートを導入。失注率を〇%改善し、年間売上1億円(達成率120%)を実現」
このように、独自の工夫や施策を言語化できて初めて、そのスキルは他社でも通用する「ポータブルスキル」として評価されます。
SaaS営業・マーケ職で評価される軸
SaaS業界やIT業界の採用において、特に重視される評価軸は「再現性」と「プロセス理解」です。
- 再現性: たまたま大きな案件が取れたのではなく、「狙って成果を出せるロジック」を持っているか。
- KPI設計力: 最終ゴール(売上)から逆算し、どのアクション(商談数、架電数、リード獲得数など)に注力すべきかを数値で語れるか。
- 学習意欲と柔軟性: ドッグイヤーと呼ばれる速い変化に対応し、新しいツールや手法を自らキャッチアップできるか。
特にSaaSビジネスは分業体制が一般的であるため、前後の工程(マーケティングからセールス、セールスからカスタマーサクセス)への連携意識や全体最適の視点を持っている人材は高く評価されます。
転職しなくても「準備」はできる
「転職活動」と「転職」はイコールではありません。実際に会社を辞める気がなくても、転職活動(情報収集や面談)を行うことは可能です。
外部の視点を入れることで、「自分の年収相場は適正か」「今の会社で得られるスキルは他でも通用するか」といった客観的なデータが得られます。もし現職の条件が良いと分かれば、納得して働き続けることができますし、逆にリスクが判明すれば、早めに手を打つことができます。リスクを最小限に抑えるためには、在職中に水面下で準備を進めておくことが鉄則です。
転職エージェントを使う前に知っておきたい現実
情報収集の一環として転職エージェントを利用する人は多いですが、その性質を正しく理解していないと、かえって混乱を招くことがあります。エージェントはあくまで「ツール」であり、使いこなす主体は自分自身であることを忘れてはいけません。
どのエージェントも万能ではない
エージェントにはそれぞれ得意・不得意があります。全ての業界・職種に精通したスーパーマンのようなキャリアアドバイザーは、現実にはほとんど存在しません。
特にSaaSやIT営業のような専門性の高い領域では、担当者の知識レベルによって提案の質が大きく左右されます。「SaaSのビジネスモデル(The Modelなど)」や「具体的な職種の違い(IS/FS/CS/PMM)」を正しく理解していない担当者に当たると、希望とズレた求人を大量に送られてしまい、判断疲れを起こすリスクがあります。
総合型と特化型の決定的な違い
エージェントは大きく「総合型」と「特化型」に分類されます。それぞれの特性を理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。
| タイプ | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 総合型(大手) | 求人数が圧倒的に多い。 異業界への転職も幅広く検討できる。 |
担当者の知識量にバラつきがある。 専門的なマッチング精度が低い場合がある。 |
| 特化型(SaaS/IT等) | 業界の裏事情や企業の詳細情報に詳しい。 専門用語が通じ、キャリア相談の質が高い。 |
総合型に比べると求人の総数は少ない。 業界外への転職には弱い。 |
エージェントは「判断材料」を増やす存在
「エージェントに勧められたから転職する」というのは危険なスタンスです。エージェントの役割は、求職者が一人では得られない「非公開求人」や「企業の内部情報(社風、実際の残業時間、離職率など)」を提供することです。
最終的な意思決定権は自分にあります。「今は転職しない方がいい」というアドバイスをくれるエージェントこそ、信頼に値するパートナーと言えるでしょう。情報を鵜呑みにせず、あくまで判断材料の一つとして活用する姿勢が大切です。
SaaS営業・マーケ特化型エージェントという選択肢
SaaS業界やIT企業の営業・マーケティング職で今後のキャリアを模索しているのであれば、業界に特化したエージェントを活用するのが効率的です。
なぜ業界特化が有利なのか
特化型エージェントの最大の強みは「解像度の高さ」です。企業ごとのプロダクトの強み、組織フェーズ、求められる人物像を詳細に把握しているため、表面的な募集要項だけでは見えない「相性」を見極めることができます。
また、求職者自身の経験についても、「どの商材を、誰に、どう売っていたか」を深くヒアリングしてくれるため、一般的な営業職としてではなく、専門職としての価値を正当に評価してくれる企業とマッチングする可能性が高まります。
マーキャリNEXT CAREERの立ち位置
SaaS業界に特化した転職エージェントとして知られるのが「マーキャリNEXT CAREER」です。SaaS企業のハイクラス・即戦力層向けの求人に強みを持ち、キャリアアドバイザー自身がSaaS業界の知見を豊富に持っている点が特徴です。
- SaaS企業特有の職種理解: インサイドセールスやカスタマーサクセスなど、専門職のキャリアパスに詳しい。
- 精度の高いマッチング: 「数撃ちゃ当たる」式の求人紹介ではなく、個人の志向や適性に合った企業を厳選して提案する傾向にある。
一方で、未経験からSaaS業界に挑戦したい場合や、全く異なる業界へ移りたい場合には、他の総合型エージェントの方が適している場合もあります。自身のフェーズに合わせて選択することが重要です。
使うかどうかは「今決めなくていい」
キャリアの悩みにおいて最も良くないのは、一人で抱え込んで思考停止に陥ることです。
「マーキャリNEXT CAREER」のような専門エージェントに登録したからといって、必ず転職しなければならないわけではありません。まずはキャリア相談(面談)を通じて、自分の市場価値を確認したり、業界の動向を聞いたりするだけでも十分な価値があります。
「良い話があれば聞く」「今の自分の評価を知る」といった軽いスタンスで、第三者の壁打ち相手として活用してみるのが、後悔のないキャリア選択への第一歩です。
まとめ
SaaS営業・マーケ職のキャリア不安は、業界の変化の速さや職種の特性上、誰もが抱える自然な悩みです。重要なのは、その不安を放置せず、「環境を変えるべきか」「自身のスキルを高めるべきか」を冷静に判断することです。
- 不安の正体を分解する: 業界構造なのか、環境不適合なのか、スキル不足なのか。
- 市場価値を棚卸しする: 再現性とプロセスを言語化する。
- 専門家の視点を借りる: 特化型エージェントなどを活用し、客観的な現在地を知る。
動くことにはエネルギーが必要ですが、動かずに悩み続けるコストの方が、長期的には大きくなるものです。まずは情報収集という小さなアクションから始めてみてはいかがでしょうか。