転職

SESを辞めたい…生活できるか不安なあなたへ|家族がいる人がまず読むべき現実

「仕事に行こうとすると、自然と涙が出てくる」「辞めたい気持ちは限界だが、家族の生活を考えると足がすくむ」。
SES(システムエンジニアリングサービス/客先常駐)という働き方において、こうした悩みは決して珍しいものではありません。特に、配偶者や子供がいる場合、自身の感情だけで「退職」というカードを切ることは極めて困難です。

多くのエンジニアが、現場の環境や将来性に不安を感じながらも、「辞めたら収入が途絶えるのではないか」「次の仕事が見つからないのではないか」という恐怖によって、思考停止に陥りがちです。

本稿では、不安の根源である「お金」と「キャリア」のリスクを冷静に整理し、生活を破綻させずに現状を変えるための判断材料をまとめます。感情論ではなく、客観的な事実とデータに基づき、次の一歩を検討するための情報を解説します。

SESを辞めたいほど限界になる人の共通パターン

SESエンジニアが「辞めたい」と感じる背景には、単なる業務量の多さだけではない、構造的な問題が存在します。ここでは、多くの退職検討者が直面している共通の悩みと、それが限界に達するプロセスを整理します。

客先常駐特有の孤独感と帰属意識の欠如

SESという業態上、エンジニアは自社ではなく顧客企業(常駐先)で勤務します。この環境では「常に部外者・ゲスト扱い」であるという疎外感を感じやすくなります。

  • チームの一体感がない
    プロジェクト単位での契約となるため、長期的な人間関係やチームビルディングが形成されにくい傾向にあります。プロジェクト完了とともに解散となるため、人間関係がリセットされ続けることへの疲弊感も少なくありません。
  • 自社への帰属意識の希薄化
    自社に戻るのは月に一度の帰社日のみ、あるいはオンラインでの形式的な報告会のみというケースも多々あります。自社の社員と顔を合わせる機会が極端に少ないため、「自分はどこの会社の人間なのか」というアイデンティティが揺らぎ、組織に対する愛着や忠誠心を持つことが難しくなります。

このような慢性的な孤独感は、精神的な摩耗を早める大きな要因となっています。

スキルが積み上がらないことへの焦りと不安

「案件ガチャ」という言葉に象徴されるように、配属されるプロジェクトによって習得できるスキルが大きく左右されるのもSESの特徴です。

  • ロースキル案件の長期化
    テスター業務や、エクセルでのドキュメント作成、スクリーンショットの貼り付け作業など、開発スキルを必要としない業務に長期間アサインされるケースがあります。
  • 技術の空洞化
    現場によっては古い言語(COBOLやVBなど)の保守運用がメインで、最新のWeb技術やクラウド環境に触れる機会が全くないこともあります。

「このままでは年齢だけ重ねて、どこにも転職できない人材になるのではないか」という将来への焦りは、日々の業務をこなす中でも常に頭を離れない強力なストレス要因です。

成果が見えにくく正当に評価されない構造

SESのビジネスモデルは、成果物の納品ではなく「エンジニアの稼働時間」を対価として報酬を得る準委任契約が一般的です。そのため、個人の技術力や成果が、直接的な給与アップに結びつきにくい構造的な課題があります。

  • 評価者の不在
    人事評価を行う自社の上司は現場にいないため、日々の働きぶりや技術的な貢献、現場での細やかな調整能力などを直接見ることができません。結果として、評価面談が形式的なものになりがちです。
  • 単価と給与の乖離
    常駐先からの単価(売上)は高いにもかかわらず、多重下請け構造や会社のマージン設定により、エンジニアの手取り給与が低く抑えられる傾向があります。「自分が稼いだ額の半分も貰えていない」という事実に直面した時、モチベーションの維持は困難になります。

「涙が出る」は心身からの危険信号

出勤前や業務中に「涙が出る」「動悸がする」「朝起き上がれない」といった症状が現れている場合、それは適応障害やうつ状態などのメンタルヘルス不調のサインである可能性が高いとされています。
これは「甘え」や「弱さ」ではなく、過度なストレスに対する生理的な防御反応です。厚生労働省の労働安全衛生調査においても、情報通信業はメンタルヘルスの不調を感じる労働者の割合が高い傾向にあります。

この段階に至っている場合、キャリアの損得勘定や履歴書の空白期間を気にするよりも、まずは自身の健康を守ることを最優先に考える必要があります。

SESを辞めたら生活できるか?リアルなお金の不安を解消する

「辞めたいが生活できない」という恐怖は、具体的な金額や制度を知らないことによる「漠然とした不安」であることが大半です。ここでは、退職後の生活を支える公的な仕組みと、IT人材市場の現実について解説します。

退職後の生活費を支える失業給付と再就職手当の仕組み

退職=即座に収入がゼロになり生活が破綻する、というわけではありません。雇用保険に加入していれば、一定の条件のもと「失業給付(基本手当)」を受給できます。

  • 給付額の目安
    退職前6ヶ月間の賃金日額の約50〜80%が支給されます。年齢や給与額によりますが、生活費の基盤となる金額です。
  • 給付期間
    勤続年数や退職理由(自己都合か会社都合か)によりますが、一般的には90日〜150日程度です。

また、早期に再就職が決まった場合には「再就職手当」や「就業促進定着手当」といった制度も利用可能です。これらのセーフティネットを理解しておくことで、「来月の家賃が払えない」という最悪の事態は回避できる計算が立ちます。

IT人材市場の有効求人倍率と需要データ

「次の仕事が見つからないかもしれない」という不安に対し、市場データはポジティブな傾向を示しています。
各種転職市場レポートによると、IT・通信業界の求人倍率は常に高水準を維持しており、職種によっては求職者1人に対し10件以上の求人がある(倍率10倍超)ケースも珍しくありません。

特に、SESで数年の実務経験があるエンジニアは、たとえ「テスター経験のみ」「保守運用のみ」であっても、完全未経験者に比べれば圧倒的に市場価値があります。IT人材不足が深刻化する中、実務経験者の需要は底堅く、選り好みをしすぎなければ「仕事がなくて生活できない」という事態に陥る確率は低いと言えます。

SESから自社開発・他職種へ転職した際の年収傾向

SESからの転職において、年収の変化には一定の傾向があります。これを事前に把握しておくことで、ミスマッチを防ぐことができます。

  • 自社開発・Web系企業への転職
    スキルセットがマッチすれば年収アップの可能性がありますが、求められる技術レベルが高いため、一時的に年収が下がる(または横ばい)ケースもあります。しかし、利益率の高い事業会社であれば、その後の昇給幅や賞与で逆転する可能性が高いです。
  • 社内SEへの転職
    安定性は高いものの、企業の給与テーブルに依存するため、SES時代より年収が下がるケースも見られます。ただし、残業時間の減少や福利厚生の充実により、実質的な時給や可処分所得は改善することが多いです。

一時的な年収ダウンは許容範囲か?生涯賃金での比較

転職によって一時的に年収が50万円〜100万円下がったとしても、長い目で見た場合の「生涯賃金」で考える視点が重要です。

比較対象 リスクと可能性
SESに留まる場合 昇給が月数千円程度で頭打ちになり、40代以降にアサインされる案件がなくなり収入が激減するリスクがあります。
転職で一時ダウンする場合 初年度は下がる可能性がありますが、特定の技術や業務知識が蓄積され、3年後、5年後に市場価値が高まることで回収できる可能性が高いです。

目先の「月収2万円ダウン」を恐れて、将来性のない環境に10年留まることの方が、結果として生活を脅かすリスクになることもあります。5年、10年スパンでのキャッシュフローを意識することが大切です。

家族がいる場合、辞める前に整理すべき3つの重要事項

独身であれば自分の判断だけで動けますが、配偶者や子供がいる場合、退職は家族全体の生活に関わる重大な決断となります。「反対されるのが怖い」と相談を先延ばしにしがちですが、事前の準備と共有がなければ、かえって家庭内の不和を招きかねません。
ここでは、家族の安心と生活の安定を両立させるために整理すべき3つのポイントを解説します。

パートナーや家族への相談タイミングと伝え方

「もう限界だから辞めたい」と感情だけで伝えると、パートナーは家計への不安から防衛反応を示し、反対せざるを得なくなります。相談は「決定事項の報告」ではなく、「現状の共有と未来への提案」として行うべきです。

  • 現状の共有
    心身の健康状態や、現職での将来性のなさを客観的に伝えます(例:「今の働き方では5年後に収入が頭打ちになる」「精神的な負荷で家庭での振る舞いにも影響が出ている」)。
  • 具体的な計画
    「いつまでに」「どのような条件で」再就職を目指すのか、期限と目標を提示します。
  • 生活費のシミュレーション
    次項で触れる貯金や給付金を根拠に、「半年間は無収入でも生活水準を維持できる」といった数字を見せることが重要です。

生活防衛資金(貯金)の目安と固定費の見直し

退職から再就職までの期間を乗り切るための「生活防衛資金」がどの程度あるかを確認しましょう。一般的には、生活費の3ヶ月〜6ヶ月分が目安とされています。

  • 自己都合退職の場合
    失業給付の受給開始まで2ヶ月〜3ヶ月の待機期間(給付制限)が発生する場合があるため、最低でも3ヶ月分の生活費は確保しておきたいところです。
  • 会社都合退職の場合
    待機期間なしで受給できますが、手続きから振込まで約1ヶ月かかることがあります。

同時に、固定費(通信費、サブスクリプション、保険など)の見直しを行い、月々の出費をスリム化しておくことも、精神的な余裕につながります。数千円の削減でも、無収入期間には大きな安心材料となります。

リスクを最小化する「在職中の転職活動」という選択

最もリスクが低いのは、退職せずに水面下で転職活動を進め、次が決まってから辞める「在職中転職」です。

  • メリット
    収入が途切れる不安がないため、条件面で妥協せずに企業を選べるのが最大の利点です。また、家族への説得材料としても「次は決まっている」というのが最強のカードになります。
  • デメリット
    激務の合間を縫っての活動となるため、肉体的・時間的な負担が大きいことです。

SESの場合、現場の繁忙期を避ける、有給休暇を面接に充てるなど、スケジュールの調整力が求められますが、生活リスクをゼロにする確実な方法と言えます。

今すぐ退職届を出さなくていい|まず踏み出すべき現実的な一歩

「辞めたい」と思っても、いきなり明日、退職届を出す必要はありません。むしろ、準備不足での退職はリスクが高すぎます。まずは「辞める準備」として、小さなアクションから始めてみることが、心の重荷を下ろす第一歩になります。

自身の市場価値を客観的に把握する情報収集

今の自分のスキルが社外で通用するのか、不安に思う人は多いでしょう。しかし、SESで培った経験は、本人が思う以上に市場価値があるケースも少なくありません。

まずは転職サイトに登録し、どのようなスカウトが届くかを確認するだけでも、自分の立ち位置が見えてきます。「年収〇〇万円のオファーが来る可能性がある」「自分のスキルを求めている企業がある」と知るだけで、「今の会社にしがみつく必要はない」という安心感が得られます。

選択肢を広げるためのキャリア相談活用法

一人で悩んでいると、視野が狭くなり「今の会社で耐えるか、辞めて路頭に迷うか」の二択になりがちです。第三者の視点を入れることで、意外な選択肢が見つかることがあります。

  • 転職エージェント
    求人紹介だけでなく、職務経歴書の添削や面接対策、キャリアの棚卸しを無料で行ってくれます。自分の強みを言語化してもらうだけでも価値があります。
  • キャリアコーチング
    転職を前提とせず、「どう生きたいか」「何に価値を置くか」という自己分析を深める有料サービスもあります。迷いが深い場合に有効です。

転職エージェントを「逃げ道」ではなく「保険」として使う

エージェントへの登録は、「今すぐ転職するため」だけでなく、「いざとなれば逃げられる場所を確保するため」の保険として機能します。
「いつでも辞められる」というカードを懐に持っておくことで、精神的な余裕が生まれ、結果的に現職でのストレスが軽減されることもあります。登録=転職義務ではないため、情報収集のためだけに利用することも賢い戦略です。

現状維持バイアスを捨てて戦略的に動く

人間には、変化を恐れて現状維持を優先しようとする心理(現状維持バイアス)が働きます。「もう少し頑張れば状況が良くなるかもしれない」という期待は、SESの構造上、裏切られることが多いのが現実です。
時間を浪費して市場価値を下げる前に、まずは「相談する」「調べる」というリスクのない行動から始めてみてください。それが、自分と家族を守るための確実な一歩となります。

まとめ

SESを辞めたいと感じることは、決して逃げや甘えではありません。構造的な問題や将来への不安に対する、正常な反応です。
家族がいる場合、生活への責任感から身動きが取れなくなりがちですが、最も危険なのは「思考停止のまま限界を迎えて倒れること」です。

  • まずは市場価値を知る:スカウトや求人情報を見て、自分の可能性を確認する。
  • お金の計算をする:失業給付や貯金を確認し、生活破綻のリスクがないことを可視化する。
  • 家族と共有する:数字と計画を持って相談し、味方につける。

今すぐ決断する必要はありません。まずは情報収集と相談から始めて、納得感のあるキャリアへの一歩を踏み出してください。


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