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SES辞めたいけど何から始める?怖くて動けない人のための最初の一歩

「SES(システムエンジニアリングサービス)を辞めたいが、具体的に何から始めればいいのかわからない」と検索窓に打ち込むとき、その悩みはすでに限界に近い状態にあると言えます。日々の業務に忙殺されながら、将来への不安と現状への不満が積み重なり、身動きが取れなくなっているケースは少なくありません。

特に客先常駐という働き方は、自社への帰属意識が薄れやすく、誰に相談すべきか判断に迷う場面が多いものです。「辞めたい」という感情自体は間違いではありませんが、最も避けるべきは、不安に駆られて突発的な行動に出てしまうこと、あるいは恐怖心から思考停止に陥り、心身を消耗し続けてしまうことです。

動けない最大の理由は、退職に伴う「不確実性」への恐怖です。しかし、その恐怖は行動を細分化し、リスクのない範囲で準備を進めることで確実に軽減できます。本稿では、SESからの転職やキャリアチェンジを検討する際、失敗しないために踏むべき「最初のステップ」と、孤立しがちな心理状態への対処法を整理して解説します。

SES辞めたいけど何から始める?最初にやるのは“退職”ではない

現状の辛さから逃れたい一心で、まず「退職届の書き方」や「退職日」を考えてしまう人は多いですが、キャリア形成の観点からは推奨されません。何から始めるべきかという問いへの合理的な回答は、「在職中の水面下での準備」一択です。ここでは、リスクを最小限に抑えるための正しい順序について解説します。

いきなり辞表はNG/まずは在職中の準備から

精神的な限界を迎えている場合を除き、次が決まっていない状態での「勢い任せの退職」はリスクが非常に高い行為です。厚生労働省の調査や転職市場のデータを見ても、離職期間(ブランク)が長引くほど、再就職時の条件交渉が不利になる傾向があります。また、経済的な不安は正常な判断力を奪い、「どこでもいいから就職しなければ」という焦りから、再び自分に合わない環境を選んでしまう悪循環を招きかねません。

まずは「会社の看板」と「毎月の給与」という安全装置を確保したまま、動くことが鉄則です。現職に留まりながら準備を進めることは、決して逃げ腰ではなく、自身のキャリアを守るための賢明な防衛策と言えます。

情報収集と市場確認が最優先

具体的な行動の第一歩は、応募書類の作成でも面接対策でもなく、「情報の摂取」です。SES業界から脱出しようとする際、多くの人が「自分には汎用的なスキルがないのではないか」という不安を抱えています。しかし、実際にはプロジェクト管理経験や、特定の言語での実装経験、顧客折衝の経験などが、他業界や事業会社で高く評価されるケースは珍しくありません。

まずは転職サイトを眺め、どのような求人があり、どのようなスキルセットが求められているのかを確認することから始めます。自分と同じような経歴の人が、どのような企業に転職しているかという「市場の相場」を知るだけで、漠然とした不安の輪郭がはっきりとし、次に打つべき手が見えてきます。

転職活動=「今すぐ辞める」ことではない

多くの人が「転職活動」に対して、「=今すぐ会社を辞めて次に行くこと」という重い認識を持ちすぎています。しかし、転職活動自体はあくまで「選択肢を探るプロセス」に過ぎません。活動した結果、「今の会社の方がまだマシだった」と気づけば、転職せずに残留するという選択も正解の一つです。

「良い条件のオファーがあれば検討する」というスタンスで活動を開始することは、誰に対しても不誠実ではありません。むしろ、外部の世界と接点を持ち続けることで、自身の立ち位置を客観視できるようになり、結果として現職でのストレス耐性が上がるという副次的な効果も報告されています。「活動はノーリスク、転職はリスクを伴う判断」と切り分けて考えることが、最初の一歩を踏み出すための鍵となります。

SES辞めたいけど相談できない人が増えている理由

「辞めたい」という悩みを一人で抱え込み、誰にも相談できずに孤立してしまう現象は、SES業界特有の構造的な問題に起因しています。個人のコミュニケーション能力の問題ではなく、環境要因が大きいため、自分を責める必要はありません。なぜ相談が難しいのか、その背景を整理します。

客先常駐特有の孤立感と同僚との距離

SESエンジニアの多くは、クライアント企業のオフィスに常駐して業務を行います。そのため、自社の同僚や先輩と顔を合わせる機会は月に一度の帰社日や、稀にある社内イベント程度に限られることが一般的です。日常的に顔を合わせているのは「顧客」か「他社のエンジニア」であり、業務上の連携はあっても、自身のキャリアや待遇への不満といった本音を話せる関係性にはなりにくいのが実情です。

また、同じ現場に自社の社員が複数名いたとしても、契約形態や単価の違い、評価制度の不透明さから、互いにライバル視してしまったり、腹の探り合いになったりすることもあり、心理的な距離が縮まりにくい傾向にあります。この「物理的・心理的な距離」が、相談へのハードルを極端に高くしています。

指揮命令系統の複雑さと上司に言えない構造

一般的な企業であれば、直属の上司が日々の業務を管理し、悩みがあればその場で相談できます。しかしSESの場合、「指揮命令者は顧客企業の担当者」である一方、「人事評価や労務管理は自社の上司(営業担当やリーダー)」というねじれ構造が存在します。

現場の辛さや業務過多を自社の上司に相談したくても、上司は現場の状況をリアルタイムで把握していません。「現場とうまくやってくれ」と一蹴されることを恐れたり、相談することで「現場でトラブルを起こしている」と評価されるリスクを懸念したりするため、口をつぐんでしまうのです。この構造的な「相談のしにくさ」が、問題の解決を遅らせる大きな要因となっています。

家族や友人に理解されにくい「SESの悩み」

業界外の家族や友人に相談しても、的確なアドバイスが得られにくいことも孤立を深める要因です。「正社員なのに派遣みたいな働き方なの?」「常駐先が変わるたびに人間関係がリセットされる」といったSES特有の事情は、IT業界に明るくない人には理解されにくいものです。

「せっかく正社員なんだからもったいない」「どこの会社も大変だよ」といった一般的な慰めや励ましは、構造的な問題に苦しむエンジニアにとっては、かえって「自分の甘えではないか」という自責の念を強化させてしまう場合があります。共感が得られにくい環境下では、相談すること自体がストレスとなり、結果として一人で抱え込む選択をしてしまいがちです。

怖いままでもできる転職準備ステップ

「転職活動」と聞くと、面接での受け答えや自己PRなど、高いハードルを想像しがちですが、初期段階でそこまで考える必要はありません。恐怖を感じたままの状態でも、自宅でリラックスしながら進められる「作業」から着手することが重要です。ここでは、誰にも会わず、リスクも負わずにできる具体的な準備ステップを紹介します。

自身のスキルと経験の棚卸し

最初に行うべきは、これまで関わってきた業務や扱った技術を単に「書き出す」ことです。職務経歴書として綺麗にまとめる必要はありません。メモ帳やスマートフォンのアプリに、使用した言語、フレームワーク、OS、ツール、担当した工程(設計・実装・テストなど)、チームの規模、期間などを箇条書きにするだけで十分です。

SESエンジニアは、短期間で複数の現場を経験することが多いため、本人が思っている以上に「環境適応力」や「多様なツールへの接触経験」が蓄積されているケースがあります。書き出すことで客観的な事実が可視化され、「何もないと思っていたが、意外と書けることがある」と気づくきっかけになります。これは自信を取り戻すための重要なプロセスです。

求人検索で市場価値の目安を知る

次に、転職サイトや求人検索エンジンで、自分のスキルセットに関連するキーワードを入力し、どのような求人が出ているかを眺めます。「応募ボタン」を押す必要は全くありません。目的は、自分の経験が世の中で「いくらで」「どのような待遇で」募集されているかという相場感をつかむことです。

例えば、「Java 経験3年」で検索した際、表示される年収レンジや勤務地、福利厚生などを現職と比較します。他社の条件を知ることで、「今の環境が当たり前ではない」と認識できたり、「あとこのスキルがあれば年収が上がる」といった具体的な目標が見えたりします。市場を知ることは、漠然とした不安を具体的な課題に変える効果があります。

転職エージェントとの面談を「情報収集」として使う

「エージェントに登録すると、すぐに企業に応募させられる」と警戒する人もいますが、多くのサービスでは「まずは相談だけ」「情報収集」というスタンスでの利用も歓迎されています。面談は採用面接ではないため、取り繕う必要はありません。「辞めたいが、何ができるかわからない」「今のスキルで転職できるか知りたい」といった本音をぶつけても問題ない場です。

キャリアアドバイザーは数多くの事例を見ているため、「あなたのような経歴の人は、こういう業界に行くことが多い」といった統計的な情報を持っています。第三者の客観的な意見を聞くことは、自分一人で悩み続けるよりもはるかに効率的で、精神的な負担も軽くなります。エージェントを「転職先を決める人」ではなく、「市場データを教えてくれる情報源」として活用するのが賢い方法です。

辞めるかどうかは「情報を得てから」決めていい

多くの人が陥る最大の誤りは、「転職するかどうかを決めてから動き出す」という順序です。実際には逆で、「動いて情報を得てから、転職するかどうかを決める」のが正しいリスク管理です。判断材料がない状態で決断しようとするからこそ、迷いと不安が尽きないのです。

市場を知らずに悩むことの精神的消耗

「今の会社に居続けるべきか、辞めるべきか」という問いに対して、社内の情報だけで答えを出そうとすると、思考は堂々巡りになります。外の世界(市場価値や他社の環境)を知らないまま悩むことは、地図を持たずに森の中を歩き回るようなもので、精神的に非常に消耗します。

「外に出ても通用しないかもしれない」という恐怖は、あくまで想像上のものです。実際に市場価値を確認し、「通用するかどうか」の事実を確認してしまえば、無駄な悩みは消えます。もし現時点で通用しないとわかれば、「これから何を学ぶべきか」という建設的な思考に切り替えることができます。

選択肢を持つことで得られる心の安定

皮肉なことに、転職活動をして「いつでも辞められる準備」が整うと、現職での精神的ストレスが軽減されるという現象がよく起こります。「いざとなれば転職先がある」という「切り札」をポケットに入れている状態は、理不尽な要求や将来への不安に対する強力な精神安定剤となります。

選択肢を持たない状態では、会社にしがみつくしかなく、精神的に追い詰められやすくなります。しかし、複数の選択肢を持っていれば、「今の会社を選ぶ」ということも、主体的な決断の一つになります。心に余裕を持つためにこそ、外部との接点を持ち続けることが推奨されます。

転職サービスは「逃げ」ではなく「リスク管理」

真面目な人ほど、会社への義理や責任感から、水面下での活動に罪悪感を覚えがちです。しかし、終身雇用が崩壊しつつある現代において、自分のキャリアを会社に完全に委ねることはハイリスクと言わざるを得ません。

転職サービスへの登録や情報収集は、現状から逃げるための行為ではなく、将来の不確実性に備えるための立派な「リスク管理」であり、ビジネスパーソンとして必要な「準備」です。災害に備えて保険に入るのと同じように、キャリアの危機に備えて選択肢を用意しておくことは、誰に責められることでもなく、むしろ推奨されるべき自律的な行動です。


■出典元・参考文献
・厚生労働省:転職者実態調査の概況(2026年2月11日確認)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/6-18.html

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