「今あるエックスサーバーの契約とは別に、新しいアカウントを契約した」
「契約を整理するために、古いアカウントのサイトを、新しいアカウントに丸ごと移したい」
エックスサーバー(Xserver)を複数契約していると、こうした「アカウント間でのサイト引っ越し」が必要になる場面があります。
特に、「新規契約の独自ドメイン永久無料特典を使いたいから、別アカウントで契約した」というケースは多いでしょう。
しかし、異なるアカウント間でのサイト移行は、同じサーバー会社内とはいえ、実質的には「他社サーバーへの引っ越し」とほぼ同じ作業が必要です。WordPressのデータ移行、メール設定、SSLの再設定、そして何より「サイトを止めない(ダウンタイムを最小限にする)」ための手順管理が非常に重要になります。
この記事では、エックスサーバーの異なるアカウント間でWordPressサイトやメールデータを安全に引っ越すための具体的な手順と、新規契約特典を活かす際の注意点について、実務的な視点から詳しく解説します。
目次
異なるアカウント間の引っ越しとは?
まず「異なるアカウント間の引っ越し」とは具体的にどのような状態を指すのか、言葉の定義を整理しておきましょう。公式の「アカウント移行」サービスなどと混同しないことが、正しい手順を踏むための第一歩です。
同一アカウント内の移行との違い
エックスサーバーでは、「同一アカウント(XserverアカウントIDが同じ)」内であれば、プラン変更や、契約している別サーバープランへのデータ移行(例:スタンダードからプレミアムへ)が比較的容易な場合があります。
しかし、「異なるアカウント(XserverアカウントIDが違う)」間の引っ越しは、まったくの別物です。
システム上、これらは完全に独立した「他人」のサーバーとして扱われます。そのため、管理画面上でボタン一つでデータを転送するような機能は存在しません。サイトデータ(WordPressファイル、データベース)やメールデータを一度手動で抽出し、新しいサーバーに手動でアップロードし直す作業が発生します。
なぜ異なるアカウントで引っ越しが必要になるのか
では、なぜこのような手間のかかる作業が必要になるのでしょうか。主なケースは以下の通りです。
- 新規契約特典を利用したい
「独自ドメイン永久無料」などの魅力的な特典は、基本的に「新規契約時」にのみ適用されます。既存アカウントで特典を追加適用できないため、特典目当てで新アカウントを取得し、そこに既存サイトを移すケースです。 - 契約の整理・統合
個人事業主から法人成りした、複数の事業サイトを運営していて管理アカウントを分けたい、あるいは逆に複数の契約を一つにまとめたい(ただしサイトデータは1つのサーバーに集約したい)場合など。 - サイトの譲渡・売買
他者にサイトを売却する際、サーバー契約ごと(アカウントごと)渡すのではなく、相手が用意した新しいエックスサーバーアカウントにサイトデータだけを移行する場合など。
統合やアカウント移行との関係性
エックスサーバーには「アカウントの統合」や「アカウントの移行」といった類似サービスがありますが、これらは今回の「サイトデータの引っ越し」とは目的が異なります。
| 用語 | 内容 | 今回のケースとの違い |
|---|---|---|
| サイト引っ越し(本記事) | サーバー内のサイトデータ(WP・メール等)を、別契約のサーバーへ手動で移す作業。 | データ(中身)の移動が目的。 |
| アカウントの統合 | 複数のXserverアカウントIDを1つにまとめる手続き。請求や管理を一本化する。 | 管理上まとめるだけで、サーバー契約(データ)は別々のまま。 |
| アカウントの移行 | 契約者情報を別の人(または法人)の名義に変更する手続き。 | 契約者(名義)の変更が目的。データはそのまま。 |
上記のように、「アカウントの統合」や「移行」では、サーバーの中身(サイトデータ)は動きません。
あなたがやりたいことが「サイトデータそのものを、別のアカウントが管理するサーバーへ移す」ことであるならば、本記事で解説する「手動でのサイト引っ越し」作業が必要になります。
引っ越し前に確認すべき準備事項
異なるアカウントへのサイト引っ越しは、手順を誤ると「サイトが表示されない」「メールが届かない」といった重大なトラブルに直結します。作業を開始する前に、以下の準備と確認を徹底してください。
ドメイン・SSL・メール・データベースのバックアップ
何よりもまず、現行(旧)サーバーの全データバックアップを取得します。引っ越し作業中に万が一データが破損・消失しても、ここに戻れば復旧できるという「セーブポイント」を作る作業です。
最低限、以下の3点は必ずバックアップしてください。
- ① WordPressデータ(ファイル)
FTPソフト(FileZillaなど)を使い、サーバー上のWordPress関連ファイル(wp-contentフォルダなど)をすべてローカルPCにダウンロードします。エックスサーバーの「バックアップ」機能からダウンロードしても構いません。 - ② データベース(SQLデータ)
サーバーパネルの「phpMyAdmin」にログインし、対象のデータベースを選択して「エクスポート」を実行します。これが記事データや設定情報の本体です。 - ③ メールデータ(必要な場合)
メールソフト(Thunderbirdなど)をIMAPで設定し、PCに全メールをダウンロード(ローカルフォルダにコピー)しておくのが確実です。サーバー上のメールデータは、サーバー切り替え時に原則として引き継がれません。
また、現在のSSL証明書の種類(無料SSLか有料SSLか)や、ドメインの契約状況(どこで管理しているか)もスクリーンショットなどで控えておきましょう。
DNS/ネームサーバーの切り替えタイミング
サイト引っ越しは「新旧サーバーの切り替え」作業です。この切り替えは「DNS(ネームサーバー)」の設定変更によって行われます。
DNSは「example.comというドメイン名のアクセスが来たら、このIPアドレス(サーバー)につないでください」という交通整理役です。この設定を旧サーバーから新サーバーへ変更することで、サイトの参照先が変わります。
重要なのは、「いつ切り替えるか」です。
絶対にやってはいけないのは、新サーバーにデータの準備ができていないのにDNSを切り替えることです。サイトが表示されなくなります(ダウンタイム)。
DNSを切り替える理想的なタイミングは、「新サーバー側でサイトの表示確認・メール設定が完璧に完了した後」です。DNSの変更がインターネット全体に反映されるまで数時間~最大72時間程度かかるため、その間は新旧どちらのサーバーにアクセスがいくか不安定になります。だからこそ、どちらに繋がっても(基本は新サーバーに繋がるが、反映が遅い人は旧サーバーを見る)サイトが正しく機能するよう準備しておく必要があります。
サーバーID・アカウント情報・契約者名義の違いに注意
今回は「異なるアカウント」への引っ越しです。以下の情報が旧アカウントと新アカウントで異なることを再確認してください。
- XserverアカウントID: 当然ながら異なります。
- サーバーID(サーバーパネルID): 新規契約したサーバーのIDになります。
- 契約者名義: 同一人物かもしれませんが、法人と個人などで分けている場合もあります。
特に注意すべきは、旧アカウントで「独自ドメイン永久無料」などの特典を受けていた場合、その権利は新アカウントには一切引き継がれないという点です。
新アカウントで再度「独自ドメイン永久無料」の特典を得ることは可能ですが(新規契約の条件を満たせば)、旧アカウントの特典ドメインをそのまま新アカウントの特典としてスライドさせることはできません。この点はドメイン移管のセクションで詳しく解説します。
実際の引っ越し手順(WordPressサイトの場合)
ここからは、最も一般的であるWordPressサイトを例に、実際の引っ越し手順を4つのステップで解説します。エックスサーバーには「WordPress簡単移行」機能がありますが、異なるアカウント間では利用できないため、手動での移行が基本となります。
【STEP1】新アカウントでのサーバー設定とドメイン登録
まず、引っ越し先となる新アカウントのサーバーパネルで「受け皿」を準備します。
- ドメインの追加
新サーバーのサーバーパネルにログインし、「ドメイン設定」メニューから、引っ越してくるドメイン名(example.comなど)を追加します。 - (推奨)動作確認用URLの設定
ドメイン設定を追加すると、「動作確認URL」が発行されます(例:example.com.xsrv.jp)。これは、後でDNSを切り替える前に、新サーバー上でサイトが正しく表示されるかを確認するために非常に重要です。 - SSL設定
追加したドメインに対して、無料SSL設定(「SSL設定」メニュー)を行っておきます。「反映待ち」となっても構いませんので、先に申請だけ済ませておきましょう。 - データベースの新規作成
「MySQL設定」メニューで、WordPress用の新しいデータベース(MySQL)を1つ作成します。作成した「データベース名」「ユーザー名」「パスワード」は、必ずテキストエディタなどに控えておいてください。
【STEP2】旧サーバーからデータをバックアップ(FTP・phpMyAdmin)
H2-2でも触れましたが、移行する「中身」を旧サーバーから取り出します。この作業は旧サーバーのサーバーパネルで行います。
- ファイルデータの取得
FTPソフト(FileZillaなど)で旧サーバーに接続し、対象ドメインのフォルダ(通常/public_html/example.com/以下)にあるWordPressファイルをすべてPCにダウンロードします。 - データベースデータの取得
旧サーバーの「phpMyAdmin」にログインし、該当するデータベースを選択します。「エクスポート」タブを開き、設定は「詳細」を選び、「生成オプション」の中にある「DROP TABLE / VIEW / PROCEDURE / FUNCTION / EVENT / TRIGGERコマンドを追加する」にチェックを入れて実行(.sqlファイルとして保存)します。
※エックスサーバーの「自動バックアップ」機能からデータをダウンロードしても構いません。
【STEP3】新サーバーへデータアップロードと動作確認
旧サーバーから取り出したデータを、新サーバーの「受け皿」に入れていきます。
- ファイルデータのアップロード
FTPソフトで新サーバーに接続し、STEP1で設定したドメインのフォルダ(/public_html/example.com/)に、STEP2でダウンロードしたWordPressファイルをすべてアップロードします。 wp-config.phpの修正
アップロードしたファイル群の中にあるwp-config.phpというファイルを編集します。データベースの接続情報を、STEP1で控えておいた新サーバーのデータベース情報(データベース名、ユーザー名、パスワード、ホスト名)に書き換えます。- データベースデータのインポート
新サーバーの「phpMyAdmin」にログインし、STEP1で作成した空のデータベースを選択します。「インポート」タブを開き、STEP2でエクスポートした.sqlファイルを選択して実行します。 - 動作確認
インポート完了後、STEP1で設定した「動作確認URL」(example.com.xsrv.jp)にアクセスします。サイトが正しく表示され、管理画面にもログインできることを確認します。(CSSが崩れる場合は、プラグイン等でURLの修正が必要な場合があります)
【STEP4】DNS切り替えと最終確認(SSL・メール設定含む)
新サーバーでサイトが正しく表示されることを確認できたら、いよいよ交通整理役(DNS)を新サーバーに向けます。
- DNS(ネームサーバー)の変更
ドメインを管理しているサービス(エックスサーバードメイン、お名前.comなど)の管理画面にログインし、ドメインのネームサーバー情報を、新サーバーのネームサーバー情報(新アカウントのサーバーパネルに記載)に変更します。 - 反映待ち(数時間~72時間)
DNS情報が世界中に伝わるまで時間がかかります。この間、訪問者は新サーバーまたは旧サーバーのどちらかにランダムで接続されます。 - 最終確認
DNSが切り替わった後(目安として1日後)、ブラウザで自分のサイトにアクセスし、SSL(鍵マーク)が正しく適用されているか、メールの送受信(必要な場合)が新サーバーの設定で正しく行えるかを確認します。
ここまで完了すれば、サイトの引っ越しは完了です。旧サーバーは、新サーバーが安定稼働したことを確認してから(最低でも1週間程度は様子を見てから)解約手続きに進みましょう。
メール・ドメイン・SSL移行の注意点
WordPressサイト本体の移行(H2-3)と並行し、あるいはDNS切り替え後に対応が必要なのが「メール」「ドメイン」「SSL」の3点です。これらはサイト運営の信頼性に直結するため、慎重に作業してください。
メールデータの移行方法(手動/ツール利用)
最も見落としがちなのがメールデータです。サーバーを切り替えると、新サーバーのメールボックスは空の状態から始まります。
- メールデータは引き継がれない
DNSを切り替えると、それ以降の送受信は新サーバーで行われますが、旧サーバーの受信トレイに残っていた過去のメールは自動では移りません。 - 手動でのバックアップが基本
H2-2で解説した通り、ThunderbirdなどのメールソフトをIMAP接続で使い、旧サーバーのメールをすべてPCのローカルフォルダにコピーしておくのが最も確実な保全方法です。 - Xserver公式の移行ツールは使えないか?
エックスサーバーには「メールデータ移行」機能(他社からの移行用)がありますが、移行元がエックスサーバー(旧アカウント)の場合、仕様上うまく機能しない可能性があります。基本は手動(IMAPでのローカルコピー)を推奨します。
新サーバー側では、「メールアカウント設定」メニューから、旧サーバーで使っていたものと全く同じメールアドレスとパスワードを事前に作成しておく必要があります。
ドメイン移管と「永久無料ドメイン」特典の関係
ドメインの「管理場所」も重要なポイントです。
「ドメイン移管」とは、ドメインの契約・管理業者を変更すること(例:A社からB社へ)を指します。今回の「サイト引っ越し」と「ドメイン移管」は、必ずしも同時に行う必要はありません。
例えば、ドメインの管理が「エックスサーバードメイン(旧アカウント)」であっても、サイトの参照先(DNS)だけを「新アカウントのサーバー」に向けることは可能です。ドメインの管理は旧アカウントに置いたまま、サイト運営だけ新アカウントで行うイメージです。
ただし、契約を新アカウントに一本化したい場合は、ドメイン移管(旧アカウント → 新アカウント)が必要になります。この移管手続きは、サイト引っ越しとは別に行う必要があります。
SSL証明書の再設定とエラー対策
SSL証明書(サイトの暗号化)は、サーバーに紐づいて発行されます。そのため、旧サーバーで使っていたSSL証明書は、新サーバーでは使えません。
新サーバー側で、必ずSSLを「再設定」する必要があります。
エックスサーバーの無料SSL(Let's Encrypt)を利用している場合、H2-3のSTEP1で解説した通り、新サーバーの「SSL設定」メニューからドメインに対して新規にSSLを設定申請してください。
DNS切り替え後、このSSL設定が正しく反映されていないと、サイト訪問者に「この接続は安全ではありません」という警告が表示されてしまいます。DNS切り替えから数時間経ってもSSLが有効にならない場合は、新サーバーのSSL設定が正しく完了しているか(「反映待ち」になっていないか)を再確認してください。
新規契約特典(独自ドメイン永久無料)はどうなる?
そもそも「新規契約特典が欲しいから」という理由で新アカウントを作った方も多いでしょう。この特典ドメインと、既存サイトのドメインの関係は非常に重要です。
旧アカウント特典は引き継げない
大前提として、旧アカウントで取得した「独自ドメイン永久無料」の権利や、その特典によって無料になっているドメインを、新アカウントに引き継ぐことはできません。
特典はあくまで「そのサーバー契約(アカウント)」に紐づいています。旧アカウントを解約すれば、その特典で無料化されていたドメインは、次回の更新時から通常のドメイン更新費用(有料)が発生します。
新アカウント契約で特典を再取得する方法
新アカウントを「新規契約」したのであれば、その新アカウントに対して「独自ドメイン永久無料」の特典が(条件を満たしていれば)付与されているはずです。
この特典を利用して、全く新しいドメインを1つ取得するか、あるいは既存のドメイン(今回引っ越してきたドメインなど)を1つ選び、それを「特典の対象」として紐付けることができます。
引っ越してきたドメイン(例:example.com)を新アカウントの特典対象に指定すれば、新アカウントを契約している限り、そのドメインの更新費用が無料になります。
特典を維持したい場合の注意点(移行順序と解約タイミング)
もし「旧アカウントの特典ドメインA」と「新アカウントの特典ドメインB」を両方維持したい場合、それはできません(特典は1契約につき1つが基本)。
最も賢い移行順序は以下の通りです。
- 新アカウントを契約し、特典(永久無料ドメイン)の権利を得る。
- 旧アカウントからサイトデータを引っ越す。(H2-3の手順)
- 新サーバーでサイトが安定稼働する。
- 新アカウントの管理画面で、引っ越してきたドメイン(旧アカウントで使っていたドメイン)を、新アカウントの「永久無料特典の対象」として設定(または移管して紐付け)する。
- 旧アカウントを解約する。
この手順を踏めば、ドメインの費用を途切れさせることなく、新アカウントの特典としてサイト運営を継続できます。ただし、ドメインの移管(管理業者の変更)が必要な場合は、移管ロック期間(Whois情報変更後60日など)に注意してください。
ダウンタイムを最小限にするコツ
サイト引っ越しで最も避けたいのが、訪問者がサイトにアクセスできなくなる「ダウンタイム(停止時間)」です。異なるアカウント間での手動移行では特に注意が必要ですが、手順を工夫することでダウンタイムは最小限に抑えられます。
DNS反映前後の期間を短縮する方法
ダウンタイムが発生する主な原因は、H2-3のSTEP4で解説した「DNSの切り替え」にあります。
DNSの変更が世界中に反映されるまでの時間(数時間~最大72時間)は、訪問者が新旧どちらのサーバーに接続されるか不安定になります。これを「0」にはできませんが、影響を最小限にする方法はあります。
- TTL(Time To Live)の短縮
(上級者向け)もしドメイン管理側(DNSレコード)でTTL値を設定できる場合、引っ越し作業の2~3日前に、この値を「300秒(5分)」など極端に短く設定しておきます。これにより、DNS変更後の反映速度が速まる効果が期待できます。
※TTLの変更は専門知識が必要です。自信がない場合は触らない方が賢明です。 - 作業は深夜・早朝に行う
最もシンプルかつ効果的な方法です。サイトへのアクセスが最も少なくなる時間帯(例:平日の深夜2時~5時など)にDNSの切り替え作業を行えば、万が一トラブルがあっても影響を受ける訪問者の数を減らせます。
動作確認用URL・hosts設定の使い方
ダウンタイムを減らす上で最も重要なのが、「DNSを切り替える前に、新サーバーで完璧な動作確認を終えておくこと」です。
この「DNS切り替え前の動作確認」に使うのが、以下の2つの方法です。
- ① 動作確認用URL(推奨)
H2-3で触れた、エックスサーバーが発行する「example.com.xsrv.jp」のようなURLです。これにアクセスしてサイトが正しく表示されれば、新サーバー側の設定は概ね完了しています。 - ② hosts(ホスツ)設定
(上級者向け)自分のPCだけ、強制的に「example.com」へのアクセスを「新サーバーのIPアドレス」に向ける設定です。PCのhostsファイルを編集する必要がありますが、これにより、動作確認URLでは崩れてしまうような挙動(ドメイン名に依存する処理)も本番同様に確認できます。
この事前確認を怠ると、DNS切り替え後に「サイトが真っ白になった」「管理画面に入れない」といったトラブルが発覚し、長時間のダウンタイムにつながります。
トラブル時に戻せるリカバリー手順
万が一、DNSを切り替えた後に新サーバーで重大な問題(サイトが表示されない、データベースエラーなど)が発覚した場合、慌てずに「切り戻し」を行います。
リカバリー手順:DNS(ネームサーバー)を旧サーバーのものに戻す。
これだけです。DNSを旧サーバーに戻せば、時間はかかりますが(反映待ち)、訪問者のアクセスは再び安定稼働していた旧サーバーに向かうようになります。
この「切り戻し」ができるよう、旧サーバーの契約は、新サーバーでの安定稼働が確認できるまで(最低でも1~2週間)絶対に解約しないでください。これが最大の保険となります。
よくある失敗例と解決策
最後に、異なるアカウント間の引っ越しで陥りがちな失敗例とその対処法をまとめます。
「サイトが表示されない」「メールが届かない」などのケース別対処
引っ越し後に発生するトラブルの多くは、設定漏れや確認不足が原因です。
| 発生する問題 | 主な原因とチェックポイント |
|---|---|
| サイトが真っ白・エラー | ・wp-config.php のDB情報(名前・PW・ホスト名)が間違っている。・新サーバー側でPHPのバージョンが旧サーバーと極端に違う。 ・ .htaccess の記述に問題がある(特にパーマリンク設定)。 |
| CSSが崩れる・画像が出ない | ・WordPressの「サイトアドレス(URL)」が旧URLのままになっている。 ・(上級者向け)データベース内のURLが一括置換されていない。 ・プラグイン(キャッシュ系など)が悪さをしている。 |
| 「安全ではありません」と警告 | ・新サーバー側で「SSL設定」が完了していない(「反映待ち」のまま)。 ・DNSを切り替えたばかりでSSLがまだ発行されていない。 |
| メールが届かない(受信) | ・DNS(MXレコード)が新サーバーを向いていない。 ・新サーバー側で「メールアカウント」を作成し忘れている。 |
| メールが送れない(送信) | ・メールソフト(PC/スマホ)の送信サーバー設定(SMTP)が旧サーバーの情報のままになっている。 |
アカウント統合・移行と混同してしまうトラブル
H2-1で解説した通り、「サイトデータの引っ越し」と「アカウント管理(統合・移行)」は全く別の手続きです。
「アカウント統合」手続きをしたからサイトデータも自動で移る、ということはありません。サイト運営の現場で必要なのは、本記事で解説した「手動でのデータ引っ越し」です。公式の用語に惑わされず、自分がやるべき作業が「データ移行」なのか「名義変更」なのかを明確に区別しましょう。
サポートへ問い合わせる際に伝えるべきポイント
自力で解決できない場合、エックスサーバーのサポートに問い合わせることになります。その際、以下の情報を正確に伝えると、スムーズな回答が期待できます。
- 旧アカウントのサーバーID と 新アカウントのサーバーID
- 対象のドメイン名
- 現在、DNS(ネームサーバー)がどちらのサーバーを向いているか
- 発生している問題(例:「サイトが500エラーになる」「メールが受信できない」)
- 実行した手順(例:「H2-3のSTEP3まで完了し、動作確認URLでエラーが出ている」)
「異なるアカウント間でサイトを移行中である」という前提を最初に伝えることが重要です。
まとめ|異なるアカウント間の引っ越しは“手順管理”がすべて
エックスサーバーの異なるアカウント間でのサイト引っ越しは、公式の「簡単移行」機能が使えないため、手動での作業となり非常に煩雑です。しかし、技術的に極端に難しいわけではなく、いかに「正しい手順」を「正しい順番」で実行できるかという“手順管理”が成功の鍵を握ります。
事前準備と確認の重要性
本記事で繰り返し強調してきたように、以下の3点を守ることが、ダウンタイムやデータ消失のリスクを最小限に抑えるために不可欠です。
- 作業前の完全バックアップ(ファイル+DB+メール)
- DNS切り替え前の「動作確認URL」での徹底した確認
- 新サーバー安定稼働まで「旧サーバー」を解約しない(=保険)
特に私のようなADHD気質(集中力の波や忘れっぽさ)がある人間にとって、こうした複数のタスクをまたぐ作業はミスの温床です。「大丈夫だろう」という油断が、「サイトが表示されない」「メールが届かない」という致命的なトラブルにつながります。
移行後チェックリスト
無事にDNSが切り替わったと安心せず、以下の最終チェックリストで最終確認を行ってください。
- □ 独自ドメインでサイトが正しく表示されるか
- □ SSL(鍵マーク)は有効になっているか(警告が出ないか)
- □ WordPress管理画面にログインできるか
- □ 記事のパーマリンク(各ページのURL)は正しく機能しているか
- □ メールアカウントでメールの送受信が両方できるか
- □ 新アカウントで「独自ドメイン永久無料」の紐付けは完了したか
- □ 旧サーバーの契約(自動更新など)は停止したか(※安定稼働確認後)
関連記事リンク(統合・移行記事へ)
今回の作業は、あくまで「サイトデータ」を物理的に移す作業でした。
一方で、エックスサーバーの「アカウント統合(請求まとめ)」や「アカウント移行(名義変更)」は、また別の手続きです。もし契約管理そのものを見直したい場合は、以下の記事も参考にしてください。
手順が多く混乱しやすい作業ですが、一つ一つのステップを確実に行えば、安全にサイトを移行し、新しい契約特典の恩恵を受けることができます。ぜひ、この記事をチェックリストとして活用しながら、慎重に作業を進めてください。