キャリアを見直す

40代でTOEICを受け直す意味はある?転職活動を始めて「取っておいた方がいい」と思った理由

「おっ、この求人、今の自分の経験がそのまま活かせそうだな」

揺れる通勤電車の中、スマホの画面をスクロールする手がピタリと止まる。業務内容はこれまでのキャリアとドンピシャ。給与水準も悪くない。よし、詳細を見てみよう……。

【歓迎要件】TOEIC 700点以上の方

……そっと画面を閉じる。
あのなんとも言えない虚しさ。あなたも一度は味わったことがないだろうか。

私自身、現在40代。妻と2人の子供を養いながら、往復3時間の電車通勤をこなす現役の会社員だ。
正直に言おう。「今さら英語なんて、絶対にやりたくない」と。

だが、いざ本気で自分のキャリアを見つめ直し、転職市場に身を置いてみると、ある残酷な現実にぶち当たった。
それは、実務経験は十分にあるのに、「英語のスコアがない」というただそれだけの理由で、応募すら諦めざるを得ない求人が予想以上に多いという事実。

誤解しないでほしい。この記事は「TOEICを取ってグローバルエリートになろう!」なんていう、意識の高い綺麗事を語るつもりは毛頭ない。
狙うのは、あくまで泥臭い生存戦略。
「これまで積み上げてきた大切な職務経験を、たかが英語要件で足切りさせないための防具」として、40代からTOEICをどう割り切って取りに行くか。現在進行形で10月の試験に向けてあがいている私のリアルな実体験と、導き出した極端な攻略ルールをすべて共有する。

「転職の選択肢は狭めたくない、でもTOEICに何百時間も使えるわけがない」
そんな風にモヤモヤしているなら、ぜひ最後まで付き合ってほしい。

40代になって、今さらTOEICを受けるとは思っていなかった

「英語の勉強?いやいや、今の時代DeepLもGeminiもあるし、実務優先でしょ」
つい最近まで、私は本気でそう思っていた。

というのも、ただでさえ40代の毎日は時間との戦いだからだ。
日中は業務に追われ、クタクタになって帰宅すれば2人の子供たちが待ち構えている。さらに私は将来の選択肢を広げるために、空き時間を見つけてはブログ運営やIT資格(直近だと応用情報技術者試験など)の学習にもリソースを割いてきた。
自宅から往復3時間かかる通勤電車の座席が、私にとって唯一の「自分のためのデスク」だ。

そんなカツカツの生活の中で、「TOEIC」の優先順位は限りなく底辺に近かった。

「単語帳をパラパラめくって、文法をゼロからやり直す?いや、学生じゃあるまいし無理だろ……」
資格スクールの広告を見かけるたびに、「あれは外資系に行きたい一部の意識高い人たちのゲームだ」と自分に言い聞かせ、どこか目を背け続けてきたのが正直なところだ。

転職活動を始めると、英語要件のある求人が意外と目についた

そんな私がなぜ、重い腰を上げてTOEIC受験を決意したのか。
きっかけは、自分の市場価値を知るために中途採用の求人を本気で漁り始めたことだった。

「事業会社のWebマーケティング担当、オウンドメディアのグロース経験者優遇」
まさにこれまでの泥臭い実務経験がそのまま刺さる。よしよし、と意気揚々とスクロールしていくと、ふと目に飛び込んでくる一文。

『※ビジネスレベルの英語力(TOEIC 700点目安)をお持ちの方歓迎』

……またか。
外資系企業ではない。ゴリゴリのグローバル展開をしているわけでもない、ごく普通の国内企業だ。それでも、海外ツールを導入する際のマニュアル読解や、将来的な海外展開を見据えてか、しれっと「TOEICスコア」が要件に紛れ込んでいるのだ。

この時、猛烈な違和感と悔しさが込み上げてきた。
私は英語の専門家になりたいわけじゃない。これまでの10年間、現場で悩み、仮説を立て、数字を追ってきた「マーケターとしての実務経験」こそが自分のコアスキルだ。
それなのに。その積み上げてきた武器を振るう土俵にすら、「英語の点数がない」という理由で上がれない。書類選考の時点で、自動的に弾かれてしまう。
こんなにもったいない機会損失があるだろうか。

この瞬間、私のなかでTOEICの位置づけがガラリと変わった。
「英語を武器にする」ための剣ではない。
「自分の経験を正当に評価してもらうための場を、これ以上狭めないための盾」なのだと。

履歴書にスコアさえ書ければ、その先は「本業の実務経験」で勝負ができる。逆に言えば、スコアがないだけで、そもそも実務経験を見てもらうチャンスすら失う。
この事実に気づいたとき、私は「今さら遅い」という変なプライドを捨てて、TOEIC試験を申し込んだ。自分のキャリアの選択肢を、自分自身で狭めないために。

TOEICは転職の決定打ではない。でも「応募できる求人」を増やせる

ここで一つ、絶対に勘違いしてはいけない残酷な事実をお伝えしておく。

「TOEIC高得点を取れば、40代でも優良企業にポンポン受かる」
……なんてことは、万に一つもあり得ない。

中途採用、とくに30代後半から40代に企業が求めているのは、圧倒的に「実務経験」と「即戦力」だ。
「これまで現場で何に悩み、どう壁を乗り越え、どんな数字を作ってきたのか」
その生々しいビジネスの修羅場経験こそが主役であり、評価の9割を占めると言っても過言ではない。

実際、転職市場をリサーチしていても、「英語ペラペラで実務経験ゼロのおじさん」より「英語はできないが、自社の課題を解決できるプロ」の方が求められているのは火を見るより明らかだった。

「だったら、やっぱりTOEICなんていらないじゃないか」

私も最初はそう毒づいた。だが、現実の求人市場はもう少しドライだった。
企業側からすれば、条件の良い人気求人には毎日山のように応募書類が届く。人事担当者はそのすべてをじっくり読む暇などない。そこで便利なのが「わかりやすい足切りライン」としての資格だ。

実務経験がどれだけドンピシャでも、募集要項に「TOEIC 700点以上」と書かれていれば、未達の履歴書はシステム上ではじかれるか、優先順位をガクッと下げられる。
逆に言えば、TOEICは転職における「主役の武器」ではないが、自分の経験を見てもらうための「入場券」であり、門前払いを防ぐための「補助装備(防具)」なのだ。

あなたがこれまで血を吐く思いで積み上げてきた職歴。
それを「英語の点数が足りない」という理由だけでゴミ箱行きにさせないための、ただのツール。そう割り切ってしまえば、TOEICに対する変なアレルギーも少しは和らぐのではないだろうか。

だから私は900点ではなく、まず800点台を狙うことにした

「補助装備」だと割り切った瞬間、私の中でTOEIC対策の戦略がクリアになった。

目指すべきは、満点でも900点オーバーでもない。
転職市場で「あ、この人は英語に抵抗がないし、実務で海外ツールやマニュアルを読み込む程度の基礎力はあるな」と示せるスコア。
現時点で、私はそれを「800点台」と設定し、そこだけを狙い撃ちにすることにした。

SNSを開けば「40代からTOEIC900点達成!」「1年で満点を取りました!」といったキラキラした成功体験が溢れている。
すごいとは思う。心から尊敬する。
だが、往復3時間の通勤電車に揺られ、帰れば子供たちの相手をし、さらに副業のブログや他資格の勉強まで抱えている私に、そんな無謀な時間と労力を突っ込む余裕は1ミリもない。

私たちの目的は「TOEICマニア」になることではなく、「自分が選べるキャリアの選択肢を広げること」だ。

仮に900点を取るために膨大な時間がかかるとしよう。
その時間があるなら、私は本業のマーケティングスキルを磨くか、副業の仕組み化に時間を投資する。あるいは、家族と笑って過ごす休日にあてる。その方が、人生全体の幸福度も市場価値もはるかに上がる。

「700点〜800点台があれば、少なくとも英語要件で足切りされる求人は激減する」
これが、求人票を穴のあくほど見つめて出した私なりの結論だ。

だからこそ、資格スクールが推奨するような「単語を隅から隅まで覚え、文法を完璧に理解する」という正攻法は捨てることにした。
限られた時間、具体的には来月の試験までの約1か月で、いかに効率よく「スコアという名の防具」を手に入れるか。

実際に過去問を解き始めてみると、私という人間の「致命的な弱点」と、それを逆手に取った泥臭い攻略法が見えてきた。

実際に勉強して分かった「私のTOEICの弱点」

800点台という「防具」を手に入れるため、私は往復3時間の通勤電車の中で、重い腰を上げて公式問題集や対策アプリを開き始めた。

そこで突きつけられたのは、40代の疲労した脳の現実と、自分自身のいびつな「得意・不得意」の偏りだった。
自己分析をしてみると、どうやら私のTOEIC戦闘力はこんな状態らしい。

Part 1はほぼ問題ない

写真を見て状況を説明する音声を選ぶ、最初の腕試し的な問題。
ここはぶっちゃけ、それほど苦戦しなかった。

本業で日頃からWebサイトのバナー画像や広告クリエイティブを見ている職業病かもしれないが、「誰が、どこで、何をしているか」を瞬時に観察するクセはついている。流れてくる短い英文も、単語の拾い聞きで十分に対応できた。
「お、意外とイケるんじゃないか?」と、最初は甘い勘違いをさせてもらったパートだ。

Part 7も時間さえあれば解ける

鬼門と呼ばれる長文読解のPart 7。
実はこれも、絶望するほど手も足も出ないわけではなかった。

というのも、普段の業務やブログ運営(WordPressのカスタマイズなど)で、海外のツールやプラグインの公式ドキュメントを読まざるを得ない場面が多々あるからだ。
Google翻訳やDeepLに頼りつつも、「どこに何が書いてあるか」をスキャンする能力は、この7年間で無意識に鍛えられていたらしい。

だから、時間さえ無制限に与えられれば、答えを見つけ出すことはできる。
問題は「時間」だ。TOEICは信じられないほどのスピードで情報処理を求めてくるため、じっくり読んでいたらあっという間にタイムアップになる。

「何の話か」が分からないと一気に頭に入らなくなる

一番の致命傷だったのがこれだ。特にPart 3(会話問題)で顕著に表れた。

音声が突然スタートした瞬間、
「……え、ちょっと待って。これ今、どこの話? ホテル? それともオフィスの会議? 誰と誰が喋ってるの?」
と、状況の「前提」を取りこぼすことがある。

この「何の話か」という枠組みが頭にできていないと、その後にどれだけ綺麗な英語が流れてきても、単なるBGMやノイズとしてしか脳が認識してくれないのだ。単語はいくつか聞き取れても、意味のネットワークとして繋がらない。
そして焦っているうちに次の設問に進んでしまい、パニックになって総崩れ……という見事な負けパターンを何度も経験した。

実はこれ、リスニングだけでなくPart 5やPart 6(短文・長文穴埋め)でも同じだった。
文章の背景や話題がイメージできないと、処理速度がガクンと落ちる。文法問題のはずなのに、「そもそも何が言いたい文章なんだ?」と迷子になってしまうのだ。

私の場合、TOEIC攻略の鍵は英語力より2つだった

この「弱点」に向き合ったとき、私は悟った。
いま必要なのは、単語帳を暗記して英語の絶対値を引き上げることじゃない。そんな時間はないし、来月の試験には間に合わない。

必要なのは、テストという名の「作業」を止めずに処理し続けるためのルールだ。
そこで私は、自分のための極端な攻略法を2つに絞り込んだ。

①まず「何の話か」を掴む

リスニングでもリーディングでも、いきなり英文と正面衝突しないこと。
これが最大の防御策になった。

問題文が読まれる前、あるいは長文を読み始める前に、必ず設問と選択肢を高速でスキャンする。
そこで「reservation(予約)」「delivery delayed(配送遅れ)」「schedule change(予定変更)」といった名詞やアクションのキーワードだけを拾い集めるのだ。

すると頭の中に、「あ、これは出張先のホテルでトラブルが起きた話だな」という【箱】ができる。
この箱さえ用意しておけば、あとは流れてくる英語が勝手にその箱の中に収まっていく。ビジネスメールの処理と全く同じだ。件名と差出人を見て「何の話か」を予測してから本文を読む。あの感覚をTOEICに全振りするのだ。

②100%正解だという確信を求めない

もう一つのルールは、40代の社会人が陥りがちな「完璧主義」を捨てること。

仕事柄、「データに裏付けられた確信」がないと動けないクセがついている。
そのため、問題を解くときも「絶対にこれが正解だ、なぜならSVOCの構造がこうで……」と、100%の確信を持とうとして、ひとつの問題に時間を溶かしすぎていた。

だが、TOEICは時間との戦いだ。
だから、「なんとなく70%くらいの確率でこれだろう」と思ったら、もうマークして次に進むことに決めた。

特にPart 5(短文穴埋め)では、この割り切りが効く。
これまで中高の授業や、仕事での英語ツールを通して、なんだかんだで私たちの脳の片隅には「英文のストック」が眠っている。
理屈(文法)で完全に説明できなくても、「こっちの単語の方が並びとして自然だな」「この前置詞は、なんか気持ち悪いな」という【感覚】がある。

この直感を信じて、70%の確信でテンポよく処理していく。
考えすぎて時間を失うより、間違えてもいいから全問に目を通すこと。それが800点台をもぎ取るための、泥臭いショートカットだと確信した。

来月までの1か月は「英語を勉強する」より「解き方を染み込ませる」

来月の本番まで、残された時間はあと約1か月。
ここから私がやるべきことは、分厚い単語帳を新しく買うことでも、難解な文法書を頭から読み直すことでもない。

「何の話?→70%で決める→次へ」

この一連の動作を、ひたすら身体に染み込ませる作業だ。
言ってしまえば、スポーツの反復練習に近い。

通勤電車の中で公式問題集を開き、まずは設問をスキャンして「前提の箱」を作る。音声や長文から拾ったキーワードをその箱に放り込み、「たぶんこっちの方が自然だな」という70%の直感でマークを決め、決して立ち止まらずに次の問題へ進む。

これを毎日、淡々と繰り返す。
新しい知識の絶対量を増やすのではなく、今ある知識を瞬時に引き出し、止まらずに処理し続ける「回路」を脳内に作るのだ。

40代の疲弊した脳みそは、新しい英単語を丸暗記するのは正直しんどい。
でも、日々の業務で培ってきた「予測する力」や、限られた情報から「見切りをつける判断力」なら、20代の頃よりずっと研ぎ澄まされているはず。その強みだけを、この1か月で徹底的に使い倒すつもりだ。

40代の転職でTOEICを取るなら「目的」を間違えない方がいい

ここまで、私の現在進行形の悪戦苦闘と、極端な割り切り戦略を語ってきた。
最後にもう一度だけ、最も大切なことを確認しておきたい。

私たちがTOEICを受ける目的は、「英語ペラペラなグローバル人材になること」ではない。
「これまで泥水すすって積み上げてきたキャリアの選択肢を、これ以上狭めないこと」だ。

「仕事内容はドンピシャなのに、英語要件だけで応募すらできない」
あの虚しさを回避し、「これまでの実務経験」+「最低限の英語への耐性」というパッケージを作る。そして、自分の本来の武器を正当に評価してもらう土俵に上がる。TOEICはそのための、ただの防具にすぎない。

だからもし、あなたが心から狙いたい業界や求人に「英語要件」が一切ないのなら、TOEICなんて受ける必要はまったくない。
その時間を、職務経歴書のブラッシュアップや、今の仕事の専門スキルを磨くことに全振りした方が、何百倍も転職市場での価値は上がるからだ。

でも、もし私と同じように、求人票をスクロールしながら「あと少し英語のスコアがあれば、このポジションに応募できるのに……」と悔しい思いをしているのなら。
変なプライドや完璧主義は捨てて、最短距離で「防具」を取りに行こう。

満点なんていらない。900点もいらない。
ただ、あなたのこれまでの努力を、無駄な足切りから守るために。

私も10月の試験に向けて、今日もまた揺れる通勤電車の中でスマホの対策アプリを開く。
お互い、自分が選べるキャリアの選択肢を、泥臭く、着実に増やしていこう。

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