特に医師免許取得後の数年間は、専門医取得や学位、大学医局への入局など、将来を左右する重要な分岐点が連続します。そのため、「今の環境がつらい」という短期的な感情と、「将来のキャリアパス」という長期的な視点が混在し、判断が難しくなる傾向にあります。
本記事では、現状に迷いを感じている医師1〜5年目の方に向けて、いきなり「転職」を決断するのではなく、まずは自身の状況を客観的に整理するための視点を解説します。第三者の視点を取り入れ、冷静なキャリア判断の一助としてください。
目次
若手医師がキャリアに迷うのは自然なこと
キャリアの初期段階にある医師が、自身の進路や働き方に迷いを感じることは、決して珍しいことではありません。むしろ、医師特有の構造的な要因により、迷いが生じやすい環境にあると言えます。まずは、その「迷い」がどこから来ているのか、構造的に分解して解説します。
医師1〜5年目に起こりやすい迷いの正体
若手医師が抱く不安の多くは、選択肢の多さと拘束性の高さのギャップに起因します。初期研修期間中はローテートで多様な科に触れるものの、専門研修に入ると一気に進路が固定化されます。この「後戻りできない感覚」が、心理的なプレッシャーとなるケースが散見されます。
また、医療現場では「一人前になるまでは滅私奉公すべき」という暗黙の了解がいまだ根強く、長時間労働や理不尽な指導に対しても「修業期間だから」と自分を納得させがちです。しかし、過労死ラインを超える勤務が常態化しているケースも多く、心身の疲弊が正常な判断力を奪っている可能性も否定できません。まずは自身の置かれている状況が、構造的に迷いを生みやすい時期であることを認識する必要があります。
専門・環境・将来像を同時に考えさせられる構造
一般企業であれば、入社後に部署異動や職種転換を経て適性を見極める期間がありますが、医師の場合はキャリアの初期段階で「専門診療科(=職種)」と「医局・勤務病院(=環境)」、さらには「学位・専門医(=将来の資格)」をほぼ同時に選択・決定しなければなりません。
これら3つの要素は本来別々の軸で検討すべきものですが、日本の医療システム上、これらがセットで動くことが一般的です。「診療科は好きだが、医局の雰囲気が合わない」「指導体制は良いが、激務すぎて生活が破綻している」といったねじれが生じた際、どれか一つを変えるためにすべてをリセットしなければならないような錯覚に陥りやすいのです。この複雑さが、解決策を見えにくくさせています。
周囲が忙しすぎてロールモデルが見えない問題
キャリアを考える際、数年先を行く先輩医師の姿は重要な参考資料となります。しかし、若手医師の視界に入るのは、当直明けで疲弊しているオーベンや、家庭を犠牲にして働く上級医の姿ばかりという現場も少なくありません。
「10年後、自分もあのようになりたいか」と自問した際、肯定的なイメージを持てないことが、現在のモチベーション低下に直結します。これは本人の意欲の問題ではなく、現場における多様な働き方のモデル不足が原因です。特に大学病院や急性期病院では働き方が画一的になりがちで、他の選択肢(市中病院での勤務や転科、非常勤との組み合わせなど)が見えにくい環境にあることは、若手医師の視野を狭める大きな要因となっています。
迷っていることは「意識が低い」わけではない
医局や指導医の前では、「迷い」を見せること自体がタブー視される傾向があります。「モチベーションが低い」「根性がない」と評価されることを恐れ、不安を押し殺して業務に従事する若手医師は多いです。
しかし、キャリアに対する迷いは、自身の人生や医師としてのあり方を真剣に考えている証拠でもあります。盲目的に現状を受け入れるのではなく、「より良い医療を提供するために、自分はどのような環境に身を置くべきか」を模索するプロセスは、長期的な医師人生において不可欠です。迷うこと自体をネガティブに捉えず、現状を最適化するための健全なアラートであると捉え直すことが、次のステップへの第一歩となります。
転職を考え始めたときに、まず整理すべき3つの軸
現状に対する閉塞感から「環境を変えたい」と願うのは自然な反応ですが、準備なしに求人検索を始めることは推奨されません。若手医師の市場価値は高い一方で、その後のキャリア形成に直結する時期だからこそ、選択を誤った際のリスクも大きくなるからです。具体的な行動に移る前に、自身の思考を以下の3つの軸で整理することが重要です。
「不満」を感情と事実に分ける重要性
職場の悩みは、往々にして「感情」と「事実」が混ざり合っています。例えば「上司と合わない」という悩みがあった場合、それは「上司の言い方がきつい(感情的な不快)」なのか、「指示が一貫しておらず、医療安全上のリスクがある(事実としての問題)」なのかを切り分ける必要があります。
感情的な不満は、自身の受け止め方や時間の経過で解消する可能性がありますが、事実ベースの問題(労働法規違反、ハラスメント、教育体制の欠如など)は個人の努力では解決困難です。ノートに書き出すなどして不満を棚卸しし、それが「環境を変えなければ解決しない事実」に基づいているかを確認することで、転職の必要性を冷静に判断できます。
今の不安は「職場」の問題か「キャリア段階」の問題か
若手医師が感じる過重労働やプレッシャーの中には、どの病院に行っても避けられない「修業期間特有の負荷」と、その病院固有の「ブラックな労働環境」が混在しています。もし現在のつらさが、手技の未熟さや知識不足に起因するものであれば、環境を変えても同様の壁にぶつかる可能性が高いと言えます。一方で、明らかに法外な長時間労働や、指導放棄に近い状態が常態化しているのであれば、それは「職場」の問題です。
統計的にも、初期研修や専門研修の段階では一定の負荷は避けられない傾向にありますが、それが学習効果に見合わない単なる労働力の搾取になっていないかを見極める視点が不可欠です。
条件(年収・勤務地)を先に決める危険性
求人サイトを見ると、高額な給与や好条件の勤務地が目に飛び込んできますが、若手医師が条件面だけで転職先を選ぶことにはリスクが伴います。特に専門医取得前の段階では、目先の年収よりも「症例数」や「指導体制」、「専門医取得の可否」といった教育的価値の方が、生涯年収やキャリアの安定性に大きく寄与するためです。
条件を優先するあまり、教育体制が整っていない医療機関を選んでしまい、結果としてスキルアップが遅れ、数年後に再び行き詰まるケースは少なくありません。まずは自分が医師としてどのレベルに到達したいかを定め、そのために必要な環境を優先順位の上位に置くことが推奨されます。
若手医師が転職で後悔しやすい典型的なパターン
人材業界の事例や転職者の声を見ると、若手医師が後悔するパターンには共通点があります。最も多いのが「現状からの逃避」のみを目的にしてしまい、次の環境の精査をおろそかにするケースです。「今の医局から出られればどこでもいい」という心理状態で転職活動を行うと、入職後に「前の環境の方がまだ教育体制はマシだった」と気づくことになります。また、知人の紹介などで安易に決めてしまい、条件の齟齬があっても辞めづらくなるケースも散見されます。こうした失敗を防ぐためにも、自分なりの判断軸を確立しておくことが身を守る術となります。
若手医師のキャリアは「転職する/しない」の二択ではない
キャリアの悩み深まると、視野が狭くなり「今の病院で耐え忍ぶか、辞めて転職するか」の二者択一で考えてしまいがちです。しかし、実際にはその中間や、より柔軟な選択肢が存在します。0か1かで考えるのではなく、グラデーションの中で最適解を探す視点を持つことが、精神的な余裕につながります。
異動・診療科変更・非常勤という選択肢の検討
完全に所属を変える「転職」以外にも、環境を変える方法はあります。例えば、医局に所属している場合は、関連病院への異動を申し出ることで、人間関係や労働環境がリセットされることがあります。また、転科(診療科の変更)によって、自身の適性に合った働き方を見つける医師も少なくありません。
さらに、常勤先はそのままで、週1回の外勤(非常勤・アルバイト)で全く異なる医療機関に触れることも有効です。他院のカルテシステムや診療方針、スタッフの雰囲気を知ることは、今の職場を相対化する良い機会になります。いきなり退職届を出す前に、こうした「小さな変化」で状況が改善しないか検討する余地はあります。
情報を持っているだけで判断の質は変わる
「いざとなれば転職できる」という確信と具体的な情報を持っているだけで、現職におけるストレス耐性は大きく変わります。逃げ道がないと感じるから追い詰められるのであり、「自分には他にも選択肢がある」と知っていれば、過度な我慢をせずに済みます。
実際に転職するかどうかは別として、水面下で求人情報を眺めたり、自身の市場価値を把握したりしておくことは、精神的な安全装置として機能します。情報収集は「裏切り」ではなく、自身のキャリアを守るためのリスクマネジメントの一環です。
「相談」は「転職」とイコールではない
多くの医師が誤解しているのが、紹介会社やエージェントに登録=直ちに転職、というイメージです。しかし、良質なサービスであればあるほど、無理な転職勧奨は行わず、中長期的なキャリア支援を重視する傾向にあります。
特に若手の場合、「今は動くべき時期ではない」というアドバイスが得られることも多々あります。プロの視点から「今の環境で専門医だけは取っておくべき」「その悩みなら異動で解決できるかもしれない」といった客観的な意見をもらうために、外部の相談窓口を利用するという使い方も一般的になっています。
早い段階で外部の情報に触れておくメリット
医師の世界は閉鎖的になりがちで、所属している医局や病院の常識が、世間の非常識であることに気づきにくい構造があります。早い段階で外部の情報に触れ、相場観(給与、勤務時間、当直回数などの平均値)を知っておくことは、不当な労働環境に対する防衛策になります。
また、将来的に開業や転科を視野に入れている場合、実際にどのようなキャリアパスが存在するのかを早期に知っておくことで、現在取り組むべきスキルの優先順位も明確になります。情報は、集め始めてすぐに役立つとは限りませんが、キャリアの節目で必ず強力な武器となります。
キャリア相談先として「民間医局」をどう活用するか

キャリアを整理する際、自分一人で考え込むよりも、医師のキャリアに精通した外部サービスの力を借りるのが効率的です。中でも、研修医向け情報サイト「レジナビ」などを運営し、若手医師の利用実績が多い「民間医局」は、選択肢の一つとして検討に値します。
民間医局というサービスでできること・できないこと
民間医局は、単なる求人紹介にとどまらず、医師賠償責任保険の取り扱いや、専門誌「ドクターズマガジン」の発行など、医師の生活全般をサポートする事業を展開している点が特徴です。そのため、エージェントも「転職させて終わり」ではなく、長期的な視点での相談に応じる土壌があります。
できることとしては、常勤・非常勤求人の紹介はもちろん、市場価値の診断や、漠然としたキャリア相談の壁打ち相手になることが挙げられます。一方で、特定の医局内部の政治的な調整や、公式募集が出ていない研究職ポストの斡旋などは、民間企業のサービス範囲外となるため注意が必要です。
若手が利用する場合のメリット(常勤・非常勤の両軸)
若手医師にとっての最大のメリットは、非常勤(アルバイト)求人の保有数が業界トップクラスである点です。先述の通り、いきなり転職するのではなく「まずは週1回の外勤で他院を見てみる」といったスモールステップを踏む際に、豊富な選択肢から探すことができます。
また、全国に17拠点を展開しており、地域密着の情報を持っているため、「将来的に地元へ戻りたい」「配偶者の転勤についていく可能性がある」といった、エリアを跨ぐキャリア相談にも強い傾向があります。無理に転職を急かさず、若手特有の「迷い」に寄り添う姿勢も、利用者の評価につながっています。
人によっては合わないと感じやすいケース
一方で、あらゆるサービスには相性があります。民間医局は「親身な相談」を強みとしていますが、もしあなたが「とにかく年収などの条件面だけでドライに求人を絞り込みたい」「エージェントとの対話は最小限にして、システム的に処理したい」と考えている場合は、コミュニケーションの密度を煩わしく感じるかもしれません。また、特定の超ニッチな専門分野や、極めて特殊な手技に特化した求人を探している場合は、専門学会経由の方が早いケースもあります。
1社だけで決め込まずに比較検討するという考え方
重要なのは、民間医局も含め、紹介会社はあくまで「ツール」であると割り切ることです。1社だけに登録すると、その担当者の力量やバイアスに判断が左右されるリスクがあります。キャリアという人生の重要事項を扱う以上、複数の情報源を持っておくことがリスクヘッジになります。
まずは「民間医局」で業界の標準的な情報を聞きつつ、必要に応じて他のサービスも併用し、情報の偏りを防ぐのが賢い利用法です。複数の視点を持つことで、自分の現在地がより正確に見えてきます。
まとめ|キャリアに迷いを感じている若手医師へ
医師としてのキャリアは長く、その初期段階で迷いが生じるのは、あなたが自身の人生に真剣に向き合っている証拠です。
迷っている時点で自身のキャリアに向き合えている
日々の忙殺的な業務の中で、思考停止にならず「このままでいいのか」と問うことができるのは、一種の才能です。その違和感を無視せず、言語化しようとする姿勢こそが、将来的に納得感のあるキャリアを築くための原動力となります。
キャリアの方向性は一度で完全に決めなくていい
専門医を取るか、転科するか、開業するか。これらを今すぐ全て決定する必要はありません。キャリアは「点」ではなく「線」でつながっていくものです。今の時点でベストだと思える選択をし、状況が変わればまた軌道修正すればよいのです。そのための判断材料として、外部の情報や相談先を確保しておくことが重要です。
検討の結果「転職しない」という判断も立派な選択
情報を集め、他院の状況を知った結果、「今の環境は意外と恵まれているかもしれない」「今はまだ動く時ではない」という結論に至ることもあります。それは「現状維持」ではなく、意思を持って選んだ「積極的な残留」です。外の世界を知った上で選んだ道であれば、以前よりも納得して業務に取り組めるはずです。
まずは一人で抱え込まず、信頼できる情報源や第三者の視点に触れることから始めてみてください。
出典・参考情報
- 厚生労働省「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161146.pdf (確認日:2026年2月4日)